研究課題/領域番号 |
16J03963
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
坂本 祥太 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | ボルツマン方程式 / 初期値問題の適切性 / ベゾフ空間 / 非切断仮定 |
研究実績の概要 |
昨年度中に採択された二本の査読付論文について解説する。 一本目は、方程式の主要項に分数冪ラプラシアンを持つ、空間一様なボルツマン方程式のエネルギー非有界な解の存在と一意性、さらに安定性の導出である(Osaka J. Math., 2016)。ボルツマン方程式を考察する場合、初期条件のエネルギーが有界であるとするのが物理的に自然であるが、これを無限大として解析を行うと圧縮性粘性流で観察される衝撃波と呼ばれる現象とのかかわりがあることが分かった(Bobylev-Cercignani, 2003)。このため、初期条件にある次数のモーメントが有界な確率測度をとり、これと一対一対応する新たな特性関数のクラスを作り、ボルツマン方程式のフーリエ変換(確率論的には確率測度から特性関数への変換)による研究が進められた。このクラスを用いて、ボルツマン方程式に分数冪ラプラシアンを作用させた項を加えた方程式のフーリエ解析を行った。 通常モーメントの条件は高次モーメントが有界であるほど良いものだが、ここでは分数冪ラプラシアンの指数と比べ適当にモーメントの次数が低いときのみ先述のクラスで解が構成でき、そうでないときは局所解も存在しないことを証明した。 二本目は京都大学名誉教授の森本芳則氏との共同研究で、ボルツマン方程式の摂動問題の解の存在と一意性に関する結果である(J. Differential Equations, 2016)。先行研究よりも弱い正則性を持つ臨界ベゾフ空間に初期値をとり、大域的弱解を構成した。大域解の存在を示すには、局所解が構成できること、解の延長が可能なことが必要だが、申請者は主に後者の証明に必要となる解のアプリオリ評価を構成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように非切断ボルツマン方程式の擾乱問題のベゾフ空間における解の存在や一意性に関する論文は採択されているが、この論文で発表した内容は申請時に一年目の年次計画に記載していたものであった。申請後~採択までの時期も込めて、問題において当時未解決であった積分方程式における積分核の特異性が現れるケースの研究・執筆を行い、それ以前に得られていた結果と統合して論文にまとめた。この結果に関しては2016年日本数学会秋季総合分科会(関西大学)などでも講演している。 またこの論文を執筆するに当たって習得したテクニックにより、北見工業大学の中野雄史氏と共同研究を行い、コンパクトリーマン多様体上の拡大写像に対し作用する転移作用素に対して、拡大写像が適当な指数が定めるベゾフ空間の元であるとき転移作用素のベゾフ空間上の作用素ノルムは拡大作用素が定める定数で上から評価できることが分かった。この研究に関しては昨年6月のRIMS研究集会で発表しており、現在論文として執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
一年目に得た結果を元に、次は解の漸近挙動に関する研究を行う。目標としては、構成した解が(必要なら滑らかさに関する指数を上げ条件を強くして)適当なベゾフノルムで距離付けしたときにボルツマン方程式の定常解であるマクスウェリアン(平均0の正規分布)に熱核と同様のオーダーで時間減衰することを示す。このオーダーは切断仮定の場合や非切断でソボレフ空間に解を構成した場合のオーダーと同じであるため、適切な予想と思われる。
細かな研究内容に関しては現在未定ではあるが、今年度の7/3-8/30の日程で、香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)のRenjun Duan教授を訪問し、ボルツマン方程式の解の存在と一意性に関する議論を深める。研究内容の大枠については、訪問開始までの約二ヵ月半の間にメールのやり取りにて相談する予定である。Duan教授は「研究業績の概要」で述べた二つ目の論文に関する先行研究の共著者の一人であり、この問題について十分な知識と経験を持つため、研究の進展が見込まれる。
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