今年度は7月から8月にかけて香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)の段仁軍(Duan Renjun)教授を訪問し、前年度に行った定常解まわりのボルツマン方程式の解の存在と一意性理論を深化させる研究を主に行った。 ボルツマン方程式は数学的には球面上と全空間での積分で定義される積分作用素を持つ微分積分方程式である。前年度の森本芳則教授との共同研究では、球面上・全空間それぞれの関数として積分核が特異性を持つ場合に、Chemin-Lerner空間と呼ばれるベゾフ空間と通常のL^pノルムを組み合わせた混合型のノルムが定義する関数空間において、方程式の解の存在と一意性、解の非負値性(初期条件が非負ならば解も非負であること)を証明した。 Duan教授との研究では、積分核は球面上の関数としては特異ではないが、全空間の関数としては強い(特に森本教授との共同研究で扱ったものより十分強い)特異性を持つケースを扱った。このような場合では、上の先行研究で扱ったような関数空間と同じものを使うのでは解が構成できないということがDuan教授との考察で判明したため、速度変数に関してL^2ベースでの議論であったのを重み付きL無限空間を用いることによってその困難を解消した。具体的には、重みの指数を高めることによって積分核の持つ特異性を吸収させ評価を閉じさせるというものである。このアイディアを先行研究の手法と組み合わせることによって、方程式の解の一位存在を証明することができた。この結果はKinetcis and Related Modelsに受理され2018年12月号に掲載予定である。
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