研究課題
キネシン1は神経軸索において多くの積み荷(カーゴ)を輸送することが知られている。しかし、カーゴがどのように選択されるか、輸送の開始や停止がどのように制御されているか不明な点が多い。本研究ではキネシン1と直接結合するアルカデインのリン酸化が強固な結合に必要であることを見いだし、更に詳細な解析を行った。アルカデイン細胞質ドメインのアラニン変異体を作製しリン酸化部位の探索を行うことで、2つのキネシン1結合モチーフの間に位置する、3ヶ所のリン酸化部位を同定した。また、この3ヶ所のリン酸化部位に特異的な抗リン酸化アルカデイン抗体を作成し、実際にマウス脳内でリン酸化が起きていることを確認した。次に、3つのリン酸化部位をアラニンに置換したアルカデインを初代培養神経細胞に発現させ、神経軸索輸送を観察した。キネシン1とカーゴの結合減弱により、順行性輸送が減少することが報告されているが、アラニン変異体の順行性輸送の割合は変化していなかった。一方で、アラニン変異体の順行性輸送は野生体よりも高速で行われていることを見出した。この速度は既知のキネシン1の速度よりも高速であるが、このような高速な輸送を受ける分子としてアミロイド前駆体タンパク質(APP)が報告されている。APPはアダプター分子X11Lを介してアルカデインと結合するが、アルカデインとは別の輸送小胞を形成し、別々に軸索上を輸送されると考えられている。現在、キネシン1と結合できないアラニン変異体はAPP小胞により輸送されている可能性を検討している。本研究により、アルカデインのリン酸化がキネシン1への結合および、適切なカーゴ小胞による輸送に必要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
初年度の研究計画の通り、キネシン1に対する結合を制御するリン酸化部位を決定することができた。また、リン酸化部位特異抗体の作成と評価を行い生体内におけるリン酸化を示すことができた。決定したアルカデインのリン酸化部位に変異を導入し、神経細胞内での輸送を観察・解析した。その結果、野生型と比較して変異体の輸送速度に変化が認められ、アルカデインのリン酸化が適切なカーゴ小胞の形成を制御するという、新たな知見に繋がる結果を得ることができた。得られた成果の一部を2016年の第56回米国細胞生物学会議 (Cell biology 2016 ASCB Annual Meeting)で発表し、計画した内容を十分に遂行できている。
アルカデインのリン酸化が適切なカーゴ小胞の形成に必要である可能性が示唆された。今後はアルカデイン非リン酸化模倣体がAPP小胞に局在しているか免疫染色法により検討する。また、非リン酸化体がキネシン1と結合できないことでカーゴ小胞を形成できない可能性を検討するため、アラニン変異体及びキネシン1結合部位を欠損したアルカデインについて、ゴルジ体からの輸送効率を測定することでアルカデインのリン酸化が適切な輸送を制御する機構を明らかにする。本研究により、キネシン1と結合するカーゴ分子の輸送制御機構について新たな知見を得ることができると考えられる。
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Nutritional Neuroscience
巻: Jun22 ページ: 1-9
10.1080/1028415X