研究課題/領域番号 |
16J04111
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
佐藤 賢之介 新潟大学, 大学院自然科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 遅れエトリンガイト / 硫酸塩劣化 / DEF / モノサルフェート / C-S-H / 乾燥条件 / 共存物質 |
研究実績の概要 |
本研究は、セメント・コンクリート硬化体に内在する、または外部環境に由来する硫酸塩の作用によって生じる、“硫酸塩劣化”や“Delayed ettringite formation(DEF)”と呼ばれる膨張劣化現象の要因となる、“遅れエトリンガイト”の生成とその膨張発生機構を、各種水和物の物理化学的性質に基いて解明することを最終的な目標としている。 平成28年度においては、1.硫酸イオンと反応してエトリンガイト(以下、Ett)に変化するモノサルフェート(以下、Ms)の乾燥処理が遅れEtt生成量に及ぼす影響、2.Msにケイ酸カルシウム水和物(以下、C-S-H)などの物質を共存させた場合の遅れEtt生成への影響について、主にXRD/Rietveld解析により検討した。また、Ettは1mol中に32molもの水分子を有していることから、加熱脱水および再吸水に伴う水分状態変化と体積変化との関係を検討するため、熱分析および格子定数の算出を行った。 得られた成果は下記の通りである。1.に関して、Msは110℃程度の強い乾燥条件においては相対湿度66%乾燥と比較して結合水量が低下し、結晶構造が変化するとともに、硫酸イオンを供給すると遅れEttを多量に生成することを明らかにした。2.について、Msに共存物質を混和した場合、C-S-Hを混和したものでは、ほとんどのMsが遅れEttに変化することを明らかにした。特に、C-S-H中のCaO/SiO2モル比が高い場合において、遅れEtt生成量が増大する結果が得られた。さらに3.に関して、110℃乾燥したEttは10mol程度まで水分量が減少するものの、再吸水によって水分量が回復することを明らかにした。また、脱水後は各格子定数が減少し、再吸水に伴って加熱前と同等以上の値になったことから、Ettの保有水分量が体積変化に大きく影響することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、モノサルフェートやC-S-Hといった、各種水和物の合成方法を習得し、それらを用いた単純な系によって遅れエトリンガイト生成の現象解明の糸口をつかむことができたことが理由として挙げられる。エトリンガイト生成膨張に関する既往の研究では、セメント硬化体を対象とし、多種の水和物が混合した複雑な系であったことから、エトリンガイトの生成・膨張要因の特定が困難であったが、本研究の合成水和物を用いた単純な系を対象とする手法は、現象解明に有用であることが示された。また、これまで得られていなかったエトリンガイト生成に関する重要な知見を得ることができたことも理由として挙げられる。モノサルフェートの乾燥処理条件、ひいては水分状態によって硫酸イオンとの反応性が異なり、強い乾燥を与えた場合に遅れエトリンガイトの生成量が増大することや、C-S-Hが共存する系において遅れエトリンガイト生成量が劇的に増大すること、またエトリンガイト自体も水分量変化によって体積変化を生じる可能性があることなど、世界で未だ報告されていない新しい知見が得られた。乾燥条件や、共存物質の影響などをいかに定量するかという点に関しては、今後さらに詳細な検討が必要であると考えるが、得られた知見は遅れエトリンガイト膨張現象の解明において重要な役割を果たすものである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討で、モノサルフェートの乾燥処理を110℃と相対湿度66%として変化させた場合、硫酸イオンとの反応性が大きく異なり、110℃乾燥において遅れエトリンガイト生成量が増大した。モノサルフェートは保有水分量が少ないほど遅れエトリンガイトに変化しやすい可能性が考えられるため、今後はモノサルフェートの乾燥における相対湿度を11%・33%・97%としたものを作製し、遅れエトリンガイト生成におけるモノサルフェートの湿度依存性を明らかにする。また、生成した遅れエトリンガイト自体の性質を評価し、セメント・コンクリート硬化体の膨張現象との因果関係を明らかにする。具体的には、ダイナミックTGの等減量速度測定によって、試料中の水分量や水の結合状態を詳細に評価する。また、水蒸気吸脱着等温線を測定することによって、遅れエトリンガイト中のミクロスケールの細孔構造の変化を把握し、中赤外および遠赤外領域の波長を用いたフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によって、特にCa・Al・Siの原子の結合状態の評価を行う。さらに、27Al-NMRによってモノサルフェートやエトリンガイトのAlの配位数およびその存在割合を定量化する。以上の手法を用いて、モノサルフェートおよび遅れエトリンガイトの水分状態や結晶構造変化を評価することによって、乾燥条件の影響およびC-S-H等の共存物質が遅れエトリンガイトに及ぼす影響の定量化を行う。これらの成果を総合して、セメント・コンクリート硬化体中に生成する遅れエトリンガイトによる膨張性状を定量的に評価する手法の確立を目指す。
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