研究課題/領域番号 |
16J04128
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
草場 彰 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | III族窒化物半導体 / 有機金属気相成長 / 表面再構成 / 第一原理計算 / 非平衡量子熱力学 |
研究実績の概要 |
窒化インジウムガリウム(InGaN)はその混晶組成制御により全可視光域に渡りバンドギャップを制御できることから多接合の高効率太陽電池用材料として期待されている.さらに,III族窒化物半導体は耐放射線性に優れており,宇宙利用にも適している.上記のエネルギー変換デバイスを実現するには,気相成長プロセスを詳細に理解し,適切に制御し,高品質な窒化物半導体結晶を作製する必要がある.本年度は,GaN有機金属気相成長プロセスを詳細に理解するための理論解析を行った.これまで,化学気相成長の条件探索には,平衡熱力学に基づいたモデルが利用されてきた.本研究では,成長素過程の一つである吸着の非平衡過程を解析するモデルの開発に成功した.このモデルは非平衡量子熱力学(Steepest-Entropy-Ascent Quantum Thermodynamics,SEAQT)に基づいている.SEAQTは熱力学アンサンブルに基づく非経験的フレームワークである.今回開発した吸着モデルはSEAQTを結晶成長の問題に用いた世界で初めての事例となった.解析結果からはN原料であるアンモニア分子がGaN表面に吸着される成長素過程の非平衡領域に関する情報が得られた.さらに,GaNの表面再構成によってアンモニア吸着確率が1桁程度異なることが分かった.また,m-InAlN自然超格子の形成メカニズムに関する研究も実施した.GaN基板上のInAlN混晶薄膜におけるIn原子とAl原子の配置パターン全てについて,第一原理計算を実施し,各原子配置パターンの全エネルギーを取得した.これらのInAlN薄膜モデルに対して,ボルツマン分布則を適用した結果,成長温度においても有意な規則度が残ることが分かった.以上から,実験的に報告されていたm-InAlN自然超格子の形成について理論的な説明づけを行うことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
吸着非平衡プロセスの詳細な理解につながるSEAQT吸着モデルの開発に成功した.また,このモデルを用いて,GaN有機金属気相成長におけるアンモニア吸着確率の表面再構成依存を理解することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に開発した吸着モデルを用いて,GaN有機金属気相成長における炭素吸着の理論解析を行う.また,表面からバルクまでの炭素混入のエネルギープロフィルと組み合わせて,Ga極性面成長とN極性面成長との間の炭素不純物濃度の違いを解析する.
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