III族窒化物半導体の窒化ガリウム(GaN)は,高耐圧・低損失な次世代の電力変換素子(パワーデバイス)用材料として期待されている.また,III族窒化物半導体は耐放射線性に優れているため宇宙利用に適している.縦型GaNパワーデバイスの実現に向けては,低炭素濃度のGaNエピタキシャル層(ドリフト層)を,高速に成長させる必要がある.成長速度(成長駆動力)の解析には,平成28年度に開発した表面構造(面方位・再構成)依存の熱力学解析手法が活用できた.平成29年度は,非平衡量子熱力学に基づく化学吸着モデルを開発した.本年度は,この化学吸着モデルを活用し,GaN有機金属気相成長における炭素不純物混入の面方位依存性を解析した.従来,原料分子の吸着に関しては,吸着エネルギーと分子の化学ポテンシャル比較による解析が行われ,吸着が優位に生じるか否かが理解されてきた.本研究では,前述のモデルによって,不純物分子(メタン)吸着を定量的に解析し,Ga極性面・N極性面における吸着確率の比を求めた.この結果は表面構造(面方位・再構成)に依存するものである.報告されている炭素不純物濃度の面方位依存性についての実験結果は,メタン吸着確率の面方位依存性だけでは,説明付けることができなかった.そこで,結晶表面第1層における不純物原子の安定性まで考慮した不純物混入モデルを提案し,実験結果を説明することができた.以上,本研究課題で提案した「表面構造を考慮する成長速度解析手法・炭素不純物濃度解析手法」は,GaN有機金属気相成長の成長条件最適化に貢献できるものと考える.さらに,他の半導体結晶・成長面方位・気相成長法・不純物原子への適用も期待される.
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