研究課題/領域番号 |
16J04133
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤原 佐知子 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(PD) (40771879)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 力覚応答 / 細胞骨格 / Rho-GEF / 細胞-基質間接着 / 細胞収縮力 / 上皮細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、力学的シグナルによる細胞機能の変化(力覚応答)におけるRhoシグナルや細胞骨格の役割やその制御機構の解明を目的とする。本年は細胞内外に生じる力と細胞内のタンパク質の局在関係のリアルタイム可視化解析に取り組むとともに、Rho-GEFの一つであるSoloについて、上皮細胞の接着や形態形成に対する役割に着目し研究を行い、以下の成果を得た。 1. 細胞-基質間にかかる細胞収縮力と蛍光タンパク質のリアルタイム同時観察系の構築 細胞の力覚応答の分子メカニズムを理解するためには、力の発生状況と細胞内のタンパク質のリアルタイムかつ同時の可視化解析が必要である。私の受入先の研究室では、シリコーン基板を利用した独自の細胞収縮力可視化技術を確立している。そこで私は、本技術を蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡下での細胞の観察に適用するために実験系の検討と最適化を行い、高倍率での画像取得に成功した。本手法を用いて上皮細胞の細胞-基質間に発生する力とSoloの局在関係を解析したところ、力がかかる場所にSoloの斑点状の局在が認められ、力覚応答へのSoloの関与が強く示唆された。 2. 上皮細胞固有の細胞-基質間接着(ヘミデスモソーム)形成に対するSoloの関与 ヘミデスモソームは上皮細胞に見られる細胞-基質間接着複合体であり、かかる力に応じて再構築されることが知られている。しかしながら特に力学的環境に応じたヘミデスモソームの再構築の分子機構はほとんど解明されていない。私はSoloがヘミデスモソーム形成や維持に関与する可能性を考え、ヒト乳腺上皮由来細胞を用いて検証した。その結果、Soloがヘミデスモソームの構成タンパク質インテグリンβ4と結合し、またSoloの発現抑制がヘミデスモソーム構造を著しく減弱させると分かった。上皮細胞のヘミデスモソーム形成にSoloが重要な役割を持つことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、上皮細胞の力覚応答(力学的シグナルによる細胞機能の変化)に対するRhoシグナルおよび細胞骨格の役割やその制御機構の解明を目的とする。私はH28年度にSoloがヘミデスモソーム(上皮細胞特異的な細胞-基質間接着)へのケラチン中間径フィラメントの繋ぎとめに必要である可能性を示す結果を得ていた。そこで本年度はSoloとヘミデスモソームの関係について詳細な検証を行った。その結果Soloとヘミデスモソームを構成する代表的なタンパク質であるインテグリンβ4との結合を明らかにし、さらにSoloが上皮細胞のヘミデスモソーム形成に必要であることを示した。また細胞-基質間接着部位におけるSoloの局在と、細胞-基質間接着面で細胞に発生している力の部位を高解像度かつリアルタイムでの観察に成功し、Soloが力がかかる場所に斑点状に多く局在することを示した。これらの研究結果から上皮細胞の力覚応答よる細胞-基質間接着の形成や維持にSoloが必要だと分かった。ヘミデスモソーム形成の分子メカニズムの一端を明らかにした成果である。これらの成果は本年度、国内学会で報告するとともに、国際誌に投稿し受理、掲載された。以上から、おおむね順調に研究が進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は上皮細胞の力覚応答(力学的シグナルによる細胞機能の変化)について、アクチン骨格と中間径フィラメントの再構築の統御機構をRhoシグナルを中心に解明し、上皮細胞機能に対する力覚応答の役割とその分子メカニズムの解明を目指している。私はH28年度とH29年度の研究により、Soloが細胞-基質間接着や細胞間接着部位へのケラチン中間径フィラメントの繋ぎ止めに関与すること、細胞-基質間接着の力がかかる場所にSoloが多く局在すること、またヘミデスモソーム(上皮細胞特異的な細胞-基質間接着)の構成タンパク質と結合しヘミデスモソーム形成にも必要であることを明らかにした。 本研究が着目している点の一つである中間径フィラメントは、細胞に力学的な強度を与える構造である。しかし力学的環境に応じた再構築の分子メカニズムは全く不明である。そこで本年度は、力覚応答と中間径フィラメントの関係やRhoシグナルの関与の解明に重点を置いて研究を推進する。中間径フィラメント研究の第一人者であるドイツ・ライプツィヒ大学のThomas Magin研究室に研究拠点を移し、ケラチン中間径フィラメントと細胞の力覚応答との関係を検証する。Thomas Magin研究室ではケラチノサイトを用いたケラチン研究の高い技術を有しており、ケラチンノックアウト細胞および各種変異株が利用可能である。これらの細胞と正常細胞で力覚応答に差があるかどうかを検証し、差が認められた場合にはRhoシグナルの活性状況など細胞内シグナル伝達経路の変化についても検証する。またThomas Magin研究室ではケラチン繊維の観察技術やケラチン関連タンパク質の解析技術にも長けている。今年度はそれら技術を学び、力学的環境に応じたケラチン中間径フィラメント再構築のメカニズムやその役割を解析する。
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