研究実績の概要 |
蛋白質の異常凝集はAlzheimer病、Parkinson病、Creutzfeldt-Jakob病などの神経変性疾患や、Ⅱ型糖尿病、白内障など多様な疾患の発症の原因とされている。しかしながら、異常凝集のメカニズムの大部分は未解明で、なおかつ、これらの疾患の根本的治療法もまだ確立されていない。本研究は、蛋白質の異常凝集のメカニズム解明及び治療法の模索を目標としたものである。 本年度は、まず、異常凝集を定量的に分析できる実験系の構築に取り組んだ。条件検討・最適化の結果、5つの異なる検出法(チオフラビンT蛍光、円二色性分光法、サイズ排除クロマトグラフィー、動的光散乱、電子顕微鏡)を用いて異常凝集を多面的に分析できるようになった。また、96ウェルプレートを用いた実験系も構築し、これによって、異常凝集反応の網羅的分析も可能となった。 次に、構築した実験系を用いて、様々な溶液条件におけるプリオン蛋白質の異常凝集反応を分析した。その結果、プリオン蛋白質の正常構造が不安定な溶液条件では、ミカエリスメンテン型の反応曲線が得られたのに対して、正常構造が安定である溶液条件においては、基質阻害型の反応曲線が得られた。この実験結果から、筆者は、正常型プリオン蛋白質に非競合的な異常凝集抑制作用があるとの仮説を提唱した(Ryo P. Honda and Kazuo Kuwata, Scientific Reports, 2017)。
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