金融規制に対する学術的な裏付けは乏しく、規制が経済全体にどのような効果をもたらすのかは議論の余地が大いに残っている。これをふまえ申請者は、金融規制が金融危機をいかに防ぐことができるのかをテーマに3年間研究を行った。本年度は、資本規制と対をなす重要な規制である流動性規制に着目し、その効果を分析した。 研究手法としては、銀行及びその破たんを含んだ無期限の一般均衡モデルを構築し、生産性ショックに対するインパルス応答を流動性規制がある場合と無い場合で比較した。本モデルの特徴は市場流動性の違いを持つ二つの資産の供給をモデル化したことにある。その上で、金融機関に現行のバーゼル規制と同等の資本規制と流動性規制をかけ、資産の生産性に対する負のショックに対するインパルス応答を導き、規制がない場合のそれと比較した。 これらの比較から、現行の流動性規制は資本規制と同様、金融機関の非流動性資産の保有を制限する効果を持ち、これにより預金引き出し(金融危機)の確率を下げるとの結果が導かれた。また、この金融安定化の効果が予見に織り込まれる場合には、規制は資産価格の下落を小さくすることが導かれた。これは、規制が銀行のレバレッジを抑制して破綻の確率が下がることによるリスクプレミアムの低下が、金融機関によるコストアドバンテージを持った投資の抑制による非効率性の増長に対して支配的になりうるとの示唆を持つ。本研究ではさらに、新しい金融規制として、銀行に対して国債保有を一定以上に義務付ける規制を提案している。ここでは現行の流動性規制や資本規制が銀行の金融仲介活動を抑制することにより安定化を実現しているのとは異なるメカニズムが働いている。これは、提案している規制が投資の効率性を損なわずに金融安定化を達成することを意味し、景気後退時の資産価格にさらなる改善をもたらす結果を説明するものである。
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