研究課題/領域番号 |
16J04179
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川脇 徳久 京都大学, 化学研究所, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 光触媒 / ヘテロ接合 / 人工光合成 / プラズモン |
研究実績の概要 |
ヘテロ接合ナノ粒子は、異種無機相界面に有機保護層からなる絶縁層を有しないため、効率的な空間電荷分離が生じる。そのため、光触媒や太陽電池などの光電気化学デバイスへ応用することで、単純に粒子を混合しただけの系に比べて高効率な性能が期待される。特に局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を示すような金(Au)ナノ粒子は、半導体と接合することで、ホットエレクトロン注入によって光触媒活性を示す。また高い酸化安定性を持ち、自己溶解しない光触媒として機能するため注目を集めている。本研究では、高い伝導帯を持つカルコゲン化物(ZnS、CdSなど)とAuが保護剤を介さずに原子レベルで直接結合したヘテロ接合ナノ粒子を合成し、水分解や二酸化炭素還元など種々の化学反応への展開を試みている。 これまでの成果によってZnSナノ粒子から格子ミスマッチが小さいAu2S層の形成が容易に進むことが明らかとなってきた。そこで、直径10nm程度の粒径の揃ったAuナノ粒子の最表面に硫化処理をすることで、よりZnSとの格子ミスマッチが小さなAu2S層をAu表面に形成した。その後、Au-Au2Sナノ粒子を分散した溶液中にZn前躯体を混合し、高温下でS前躯体を注入することで、Auからヘテロエピタキシャルに成長したZnSナノ粒子を得た。これにより、可視光域でLSPRを示すAu-ZnSヘテロ接合ナノ粒子の合成に成功した。さらに、Au-ZnSナノ粒子では、過渡吸収測定によってAuからZnSへの電子注入を観測したが、電荷再結合が数十fs程度であり、光触媒としての利用が困難であった。しかし、Au-ZnSナノ粒子の外殻に、CdS層やZnSe層といったZnSより低い伝導帯位置を持つ電子リザーバー層を導入したAu-ZnS-CdSやAu-ZnS-ZnSeナノ粒子では、数nsの電荷分離寿命を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究の障害として「化学的な安定性が高く、LSPRを示すようなAu」と、「高い伝導帯位置を持つZnS」のヘテロ接合ナノ粒子の合成が困難なことが挙げられる。 Auは、熱や化学的に安定で、可視光領域で強いLSPRに基づく光吸収を示すため、耐久性の高い光触媒としての利用が期待できる。そのため、これまでもAu-CdSヘテロ接合ナノ粒子の合成法が多数報告されてきた。しかし、これらの報告では、カチオン交換法を利用した非エピタキシャル成長により、キャリアが表面準位にトラップされやすいといった問題や、より高付加価値な還元体の光合成をするためには、CdSでは伝導帯位置が低いという問題があった。そこで本研究では、高い伝導帯位置を持つZnSを用いた、Au-ZnSヘテロ接合ナノ粒子の合成法を検討してきた。しかし、昨年度の研究で、ZnSなどの高い伝導帯位置を持つカルコゲン化物とAuの格子ミスマッチが比較的大きいため、直接的なヘテロ接合ナノ粒子の合成が難しいことが判明した。 本年度の研究では、ZnSナノ粒子から格子ミスマッチが小さいAu2S層の形成が容易に進むことが明らかとなってきた。そこで、直径10nm程度の粒径の揃ったAuナノ粒子の最表面に硫化処理をすることで、よりZnSとの格子ミスマッチが小さなAu2S層をAu表面に形成した。その後、Au-Au2Sナノ粒子を分散した溶液中にZn前躯体を混合し、高温下でS前躯体を注入することで、Auからヘテロエピタキシャルに成長したZnSナノ粒子を得た。これにより、可視光域でLSPRを示すAu-ZnSヘテロ接合ナノ粒子の合成に成功した。 研究計画における、粒子合成と・キャリアダイナミクスに関する目標はおおよそ達成されたと言え、概ね順調に研究が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに、合成に成功していたAg2S-CdS、 Ag-CdSナノ粒子は単独のCdSナノ粒子に比べて、可視光照射に伴って高い水分解特性を示すことがわかった。これは、Agナノ粒子のLSPRによって、可視光領域の光が強く吸収されたことで、光電変換効率が向上したことや、Ag2Sナノ粒子へ正孔が速やかに移動することで電荷分離効率が向上したためだと考えられる。 さらに、本年度に合成に成功したAu-ZnSナノ粒子では、過渡吸収測定によってAuからZnSへの電子注入を観測したが、電荷再結合が数十fs程度であり、光触媒としての利用が困難であった。しかし、Au-ZnSナノ粒子の外殻に、CdS層やZnSe層といったZnSより低い伝導帯位置を持つ電子リザーバー層を導入したAu-ZnS-CdSやAu-ZnS-ZnSeナノ粒子では、数nsの電荷分離寿命を得ることに成功した。今後は水分解特性の評価と、電子リザーバー層導入による電荷分離寿命向上のメカニズムを解明する予定である。
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