ヘテロ接合ナノ粒子は、異種無機相界面に有機保護層からなる絶縁層を有しないため、効率的な空間電荷分離が生じる。そのため、光触媒や太陽電池などの光電気化学デバイスへ応用することで、単純に粒子を混合しただけの系に比べて高効率な性能が期待される。特に局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を示すような金(Au)ナノ粒子は、半導体と接合することで、ホットエレクトロン注入によって光触媒活性を示す。また高い酸化安定性を持ち、自己溶解しない光触媒として機能するため注目を集めている。本研究では、高い伝導帯を持つカルコゲン化物(ZnS、CdSなど)とLSPRを示す粒子(Au、Ag)が保護剤を介さずに原子レベルで直接結合したヘテロ接合ナノ粒子を液層合成し、水分解水素生成反応への展開を試みている。 異種半導体ナノ粒子の合成には、両者の格子ミスマッチが小さくなければならない。Ag2SとCdSの格子ミスマッチが比較的小さなことを利用して、Ag2SからCdS層をエピタキシャルに成長させ、さらにAg2S層の一部からSを引き抜くことによって、三相構造のAg-Ag2S-CdSヘテロナノ粒子を合成した。この粒子の励起子ダイナミクスと水分解光触媒活性を調べたところ、Ag-CdSナノ粒子に比べて、Ag-Ag2S-CdSナノ粒子は励起子寿命の伸長が見られ、33倍もの高い水素生成活性を示した。これは、CdS層で生じた励起電子がAg側へ逆電子移動する失活プロセスを、間に挟んだAg2S層が防ぎ、ホールのみをドレインするためである。Ag2S層のようなキャリア選択的なブロッキング層を利用することで、LSPRを利用した光触媒の活性を大きく向上できることを初めて明らかにした。 また、Au@ZnS@CdSの3層構造を有したヘテロ接合ナノ粒子についても合成に成功し、AuのLSPR励起に伴うCdS層への電子注入の長寿命化を観測した。
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