研究課題
感情語は,感情のコントロールや理解,コミュニケーションを促すものである。本年度は幼児期の感情語の使用や理解について検討するため,1)幼児を対象とした研究,2)幼児の母親を対象とした研究を実施した。1)では,感情語獲得過程の日中比較研究と,典型的な感情経験の認識についての研究を行った。感情語獲得過程の日中比較研究では状況への感情語ラベルづけ課題を行い,日本と中国の幼児に共通してみられることとして,快感情と不快感情の呼び分けから不快感情内の感情の呼び分けへと進むこと,不快感情の中でも怒りと悲しみの呼び分けが困難であることが明らかとなった。一方で個々の感情の正答数については文化差が見られることがわかった。また,典型的な感情経験の認識についての研究では,一部の感情について幼児は感情絵経験の主体として自己を想定しづらく他者を想定しやすいこと,大人に比べて社会的エピソードが多く個人的エピソードが少ないことが明らかとなり,幼児期の子どもは感情語の意味をより限定的に捉えている可能性が示唆された。2)では,観察研究と質問紙調査を行い,幼児に対する母親の感情語入力について検討した。観察研究では母子の相互作用場面の月1度の縦断的な観察を行っており,現在も継続中である。子どもの月齢が14-21か月の間の8か月間分のデータから,母子二者間では子どもについての感情の言及が多く,強い方向づけがないと第三者の感情言及はされにくいことが示された。また,質問紙調査では,母親が子どもに感情場面を説明する際の感情語の発話量や発話スタイルと,その子どもの感情語彙,感情理解,社会的行動との関連についての縦断調査を行っており,現在も継続中である。さらに,これらの研究に加え文献レビューを行い,研究領域の動向と課題を捉え直すとともに,感情語獲得過程を捉える質問紙調査に使用する感情語リストの作成も行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度予定していた研究については概ね予定どおり実施し,一定の知見を得ることができた。その成果は,複数の論文や国内外の学会で発表することができた。
これまで得られた成果や見通しに基づき研究を展開する。1)については,日中の文化差を生む要因について検討を進める。また,幼児期の感情経験の認識をより精緻に捉えるため,自己を主体とした感情経験と他者を主体とした感情経験に関する検討を行う。2)については,縦断研究を継続し,分析を進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うちオープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件)
信学技報
巻: 116 ページ: 133-138
国立教育政策研究所平成27年度プロジェクト研究:非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書
巻: 第2部第2章第2節 ページ: 80-88
巻: 第2部第2章第3節 ページ: 89-101
巻: 第3部第2章第2節 ページ: 251-256
発達研究(発達科学研究教育センター紀要)
巻: 30 ページ: 221-224