研究課題/領域番号 |
16J04286
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 良 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 微小光共振器 / マイクロコム / 光周波数コム / デュアルコム |
研究実績の概要 |
本研究課題は小型・高繰り返し周波数(数10 GHz以下)のデュアルコム光源に向けて,微小光共振器から低ノイズのマイクロコムを発生する研究である.研究計画では液体や気体の検出光源としてマイクロコムの利用を提案したが,LIDARや光波長多重通信光源への応用も期待することが出来る.分光やLIDAR応用に対して,高繰り返し周波数のマイクロコムは大きい繰り返し周波数差を許容できるため,高速に変化する現象をモニタリングするシステムの実現が期待できる.29年度の研究実施計画では,アセチレンの検出系を構築し,また直交した偏光成分を持つポンプレーザにより微小光共振器からデュアルコムを発生することを目標とした.これに対する研究成果は,前者はアセチレンガスセルを用いてその構築を行った.後者に対しては,微小光共振器の材料と構造の再検討,単一のマイクロコム発生,最適条件の特定のための計算モデルの構築とその計算を行った.ただし,デュアルコムの発生は未確認であるため,30年度の達成目標として研究を進める.先述した計算モデルでは,直交した偏光を持つソリトンパルスが微小光共振器内を伝搬する際に,相互位相変調によって互いの繰り返し周波数にどの程度影響を与えるかを検討した.本研究成果は国際学会に投稿済みであり,29年度に微小光共振器中で2つの独立したソリトンパルスを発生させる研究が他グループより数件報告されており,それらに対して重要な知見を与える結果となっている.また本研究課題を進める中で,当初の計画には無かった誘導ラマン散乱によるマイクロコム発生の知見とデータを得ることができたため,これに関する論文化・国際学会発表を行った.誘導ラマン散乱はマイクロコム発生と強く関連する非線形光学効果であり,マイクロコムの安定発生や繰り返し周波数,発生帯域に大きく影響を与えるため,本研究成果がそれらの理解を深める一助となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施状況は以下になる.(1)これまで用いているシリカロッド共振器に加えて,フッ化マグネシウム共振器の作製を行い,光の閉じ込め効率を表すQ値と共振器分散の評価を行った.フッ化マグネシウム共振器の作製を行った理由は,熱光学効果の影響が小さいので安定したマイクロコム発生が期待できるためである.作製された共振器は直径3.6 mm(FSR 18 GHz),Q値が10の9乗オーダーという非常に高い性能が得られた.低ノイズのマイクロコム発生に関して,その発生時の特徴として透過パワーがステップ状に変化することが挙げられる.本研究においても,透過パワーのステップ変化を確認することが出来ており,長時間の安定した発生に向けてフィードバック制御や条件の特定を進めている.(2)通常のマイクロコム発生は四光波混合を介して行うが,それに対し本年度はシリカロッド共振器を用いて誘導ラマン散乱によるマイクロコム(ラマンコム)発生について評価を行った.これまでラマンコムの発生過程やスペクトル形状制御,そのパラメータ依存性などはよく理解されていなかった.そこでシリカガラスの広帯域なラマン利得スペクトルを利用し,シリカロッド共振器中でのラマンコムのパラメータ依存性とその発生過程を明らかにした.本研究成果は査読付き論文誌に掲載された.(3)今年度は理論面からデュアルマイクロコム発生を理解するため,相互位相変調を考慮した新たな計算モデルを構築した.直交偏光を持つ2つのマイクロコムが共振器内を伝搬すると,相互位相変調によって互いの有効屈折率を変化させ,繰り返し周波数差が重要となる微小光共振器のデュアルコム応用に影響を与える.本年度は計算モデルを用いて,その安定条件や繰り返し周波数差に関する計算を行い,その結果を国際学会へ投稿した(査読中).(4)アセチレンガスセルを用いて検出系の構築を行った.
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今後の研究の推進方策 |
30年度の研究計画は,相互位相変調を考慮したLugiato-Lefever方程式の計算モデルを用いて,直交偏光のデュアルコムの安定条件や繰り返し周波数差に関する計算をする.また実験においてその再現を行い,発生したデュアルコムを用いてアセチレンガスの検出を行い,その研究成果を論文としてまとめる.以下にその詳細を記す.直交偏光を持つ2つのマイクロコムが共振器内を伝搬すると,相互位相変調によって互いの有効屈折率を変化させる.このとき繰り返し周波数差が小さい,もしくは強く相互位相変調が生じると,この繰り返し周波数差が同じ値に補正される.この現象はソリトントラップと呼ばれ,繰り返し周波数差が重要となる微小光共振器のデュアルコム応用に影響を与える.30年度は,計算モデルを用いて安定条件や繰り返し周波数差に関する計算を行った結果をまとめる.実験に関して,シリカロッド共振器とフッ化マグネシウム共振器を用いて単一共振器からのデュアルコム発生に取り組む.まず長時間にわたり低ノイズのマイクロコムを発生するために,フィードバック機構によって入力光の安定化を行う.また各偏光成分について共振波長と分散値の測定を行い,共振モード間の線形結合の影響を明らかにする.その後に直交偏光のポンプレーザにより微小光共振器からデュアルコムを発生する.その際に電気光学変調器により単一のポンプレーザから2つの波長を発生させ共振器に入力するが,共振器構造による共振波長の制御が必要となる.この電気光学変調器による手法が難しいようであれば,独立した2つのポンプレーザを用いることとする.その発生したデュアルコムを用いてアセチレンガスの検出を行うことを目標とし,これらの研究成果の論文投稿を行う.
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