全球大気再解析は過去の大気の状態を長期に渡って再現したものであり,大気の観測から得られたデータを数値予報モデルに同化することにより,過去の大気状態の高い再現性が実現されている.よって今日では,大気再解析データは異常気象の要因分析などの気候系監視や研究に幅広く活用されており,そのデータ品質のさらなる向上は社会の利益に資するのみならず気象・気候学の発展にも非常に重要である.本課題では世界中の西岸境界流が海上風や雲・降水系へ及ぼす影響を調査するために,長期に渡って高解像度の海面水温データを用いた大気再解析データを気象研究所と協力して作成した.この再解析データと,低解像度の海面水温データが用いられている他の大気再解析データとの比較を通じて,西岸境界流がその周辺の大気へ及ぼす影響を調査すると共に,大気再解析における高解像度海面水温データの重要性を評価した. 高解像度の海面水温データが与えられている再解析データでは,南北両半球の主要な西岸境界流に沿う強い海面水温勾配の暖水側で海上風収束や上昇流が強化され,それに伴って降水や雲水量が局所的な増加を示していることが確認された.一方、低解像度の海面水温データが用いられている大気再解析では,海面水温の分布に微細構造が表現されていないことを反映して,上記の大気の構造やその変動の表現は不明瞭であることが確認された.これらは,中緯度の西岸境界流や海洋渦が大気の三次元循環場や雲・降水系の分布へ及ぼす影響を全球について明瞭に示した結果であると共に,大気再解析データの品質向上のために高解像度の海面水温データを用いることの重要性を示した成果である.実際に,これらの成果を踏まえて,気象庁の次世代の大気再解析では高解像度の海面水温データが用いられることが決定している.
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