細胞の正常な増殖において、核内に納められているDNAを正確に複製することは必要不可欠である。ORC(Origin Recognition Complx)は、DNAの複製開始点を認識するタンパク質として、1992年に出芽酵母において発見され、ヒトまで広く保存されていることが知られている。近年、ヒトORC構成因子の一つを用いた実験から新規ORC結合タンパク質として、LRWD1(Leucine-rich Repeats and WD repeat domain cantaining1)/ORCAが発見された。報告者の所属する研究室でも独自にLRWD1を同定しており、LRWD1をRNA干渉法により機能阻害すると、G1期が延長することやORCの可溶性が上昇すること、ヒストン修飾酵素G9aと相互作用することを独自に明らかにしており、LRWD1はヒストン修飾酵素と連携することで、DNAの複製開始に重要な役割を果たしているものと考えられる。 当該年度ではLRWD1がDNA複製開始でどのような機能を果たしているかを解き明かすため、DNAヘリカーゼの一つであるMCM3にGFPタグを付加し、生細胞中で動態を観察できる系を樹立した。この系と昨年度までに樹立していた、mCherryタグを付加したPCNAによる細胞周期観察系を組み合わせることにより、細胞周期の時期を特定しながら、LRWD1の有無によるMCM3の動態を観察した。その結果、MCM3はLRWD1が存在する状態ではG1期の終わりから、PCNAの集積に先立って点状の局在を示し、LRWD1をノックダウンするとその集積がみられなくなることがわかった。このことから、LRWD1はMCM3が集積するのに必須な複製開始点の構築に関わっていることが生細胞観察で示唆された。以上の結果はG9aのノックダウンでも同様であった。 これらの結果からLRWD1はG9aとともに複製開始点の構築に深く関わり、LRWD1-G9a複合体の機能を詳細に解析することで、今まで知られていなかったヒトにおけるDNA複製開始点の構築、また制御への新たな知見を与えるものと期待される。
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