研究課題/領域番号 |
16J04359
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
荒川 泉 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 放射柔細胞 / 木部分化 / 貯蔵養分 / 放射仮道管 / 細胞死 / 液胞 / 二次木部 / デンプン |
研究実績の概要 |
将来的な木質資源の高度有効利用のためには、木材を生産する樹木の樹幹の成長機構や生命現象の理解が重要である。そのためには、樹幹の大半を構成する二次木部細胞の中でも、長命な放射柔細胞が担う養分貯蔵や心材物質の生合成等の機能に着目する必要がある。本研究では、複数の針葉樹を用いて、放射組織の分化に伴う細胞内容物および細胞壁の変化と、周囲の組織構造との関連性を細胞生物学的手法により明らかにすることを目的とした。 平成28年度は、スギ(Cryptomeria japonica)とカラマツ(Larix kaempferi)を用いて、放射組織の分化と機能に関する組織化学的解析を行った。まず、心材形成に伴う放射柔細胞の細胞死に着目してスギ放射柔細胞の顕微鏡観察を行った。この解析により、放射柔細胞の細胞死過程における液胞の形態および機能の変化と核の自己分解の関連性を明らかにした。この結果について論文を作成中であり、近日中に投稿予定である。また、平成29年6月にカナダで開催される国際学会で結果を報告する。 次に、樹幹の三大機能の一つである養分貯蔵機能に関して、デンプンに着目して、放射仮道管を有するカラマツ放射組織の組織化学的解析を行った。放射柔細胞がデンプンの貯蔵を開始するタイミングを評価し、放射柔細胞の二次壁形成および隣接する細胞の死との関連性を議論した。その結果、放射柔細胞は二次壁の形成完了後であってもデンプンの貯蔵開始が可能であることが明らかとなった。さらに、放射柔細胞に隣接する放射仮道管や仮道管の細胞死と、放射柔細胞のデンプン貯蔵開始のタイミングが一致したことから、隣接する細胞の死が放射柔細胞のデンプン貯蔵開始に影響を与える可能性が示唆された。これらの結果は、平成29年3月に開催された第67回日本木材学会大会(福岡大会)において報告した。現在、結果を取りまとめ、論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにスギやカラマツなどの針葉樹を用いて、樹木の生命現象の理解や木材の材質制御に重要な放射柔細胞の分化および細胞死機構に関する研究を行ってきた。平成28年度は、心材形成に伴う放射柔細胞の細胞死過程における液胞の機能と放射柔細胞の養分貯蔵機能に着目し、細胞生物学的手法を用いて解析を行った。 まず、放射柔細胞の細胞死過程における液胞の形態および機能の変化と核の自己分解の関連性を明らかにした。さらに、放射柔細胞の分化過程に着目することで、放射柔細胞は二次壁の形成完了後であってもデンプンの貯蔵開始が可能であることを明らかにした。成果の一部は平成29年3月中旬に九州大学で行われた第67回日本木材学会大会で発表し、平成29年6月にカナダで開催されるIUFRO国際学会と、平成29年9月にインドネシアで開催される太平洋地域木材解剖学会議で発表予定である。得られた成果を精査し、現在論文を執筆中である。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に得られた結果を踏まえて、デンプン以外の貯蔵養分も含めた放射柔細胞における養分の貯蔵開始および消費に関して、組織化学的手法と酵素学的手法を組み合わせた解析を行う予定である。さらに、細胞壁形成における微小管の配向とリグニン沈着に着目して各種顕微鏡と染色手法を用いて解析を行い、放射柔細胞とその周囲に存在する仮道管や放射仮道管における二次壁形成やリグニン沈着のタイミングの違いや細胞内容物の変化を明らかにすることで、放射組織の分化機構を明らかにする予定である。また、オーキシンやエチレンなどの植物ホルモンが放射組織の分化および養分貯蔵機能に及ぼす影響に着目した解析も行なう予定である。得られた結果は、国内外の学会で積極的に発表し、学術論文として随時公表する予定である。
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