研究課題
日本において死亡原因第一位の疾患はがんであり、がん患者の予後改善と新規治療法開発のためにも、がんの病態基盤解明は必須である。がんは様々な要因によって引き起こされるが、チロシンリン酸化を含めたシグナル伝達異常やDNA損傷をはじめとするストレス応答制御の異常は、がんの発生・進行の重大な要因の一つである。本研究では、核内チロシンリン酸化シグナルの役割を明らかにするために、DNA損傷応答関連分子Ku70やクロマチン構造調節に関与する核内分子に着目して研究を行った。その結果、核内チロシンリン酸化シグナルはクロマチン構造制御を介してがん抑制因子のmRNA量減少に関わること、アポトーシス制御を介して細胞生存の亢進に関わることを見出した。また、核内チロシンリン酸化の細胞生存・増殖に対する影響と、がん悪性化、治療抵抗性におけるチロシンリン酸化シグナルについて解明するため、平成29年度にはin vitroとin vivoの両方向から解析を行っている。in vitro解析系においては、Src型チロシンキナーゼが過剰発現しているがん細胞を用いた解析から、内在性核内分子のチロシンリン酸化レベルと細胞生存レベルに相関があることを見出している。また、平成29年度からはin vivo解析に熟練した研究室に異動しており、マウスモデルを用いた実験手技を習得し、チロシンリン酸化シグナルによるがん発症モデルを用いたin vivo解析系を構築している。
2: おおむね順調に進展している
in vitroの解析においては、平成28年度に確立した免疫沈降法による基質分子のチロシンリン酸化の検出方法を用いて、本年度は内在性核内分子のチロシンリン酸化レベルをウエスタンブロッティング法により解析し、アポトーシス頻度の相関について詳細な解析を行った。さらに、Src型チロシンキナーゼが過剰発現しているがん細胞を用いて、チロシンリン酸化と細胞生存・増殖の関連について解析を行った。一方で、in vivoの解析においては、本年度よりマウスを使った実験手技を修得しており、チロシンリン酸化シグナルによるがん発症モデルを用いて、過剰なチロシンリン酸化シグナルとがんの関連について解析を行っている。
引き続き、in vitro、in vivoの解析系を用いて核内チロシンリン酸化を介するアポトーシス抑制とがん悪性化の関連について解析を行い、がん治療応用を目指した分子基盤解明を目指す。
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