採択者は,より高性能なフレキシブル・システムインディスプレイを実現するために,本年度はTFT性能の低下を引き起こす原因の解明に着手した.ホール移動度およびキャリア密度の温度特性を詳細に評価した結果,キャリアの発生には触媒として用いているAuによる深いドナー準位の形成が関係しており,ホール移動度の低下を引き起こす主な要因となっていることが判明した.今後は,Auの総量を減らした新たな試料構造を検討することで,TFT性能の向上が期待される.Ge薄膜の移動度向上に関して,Sn添加による結晶欠陥の低減が有効であるという報告があるため,[Au/Sn]多層構造を用いた新しい層交換成長法からフレキシブル基板上に同様の擬似単結晶Ge薄膜を検討した結果,室温のホール移動度が~300 cm2/Vsへと向上した.今後,これらの薄膜を用いた高性能TFTの実証に向けた要素技術開発が重要となることを提案した. 最後に,次世代のスピントロニクス技術との融合を視野に,フレキシブル基板上の擬似単結晶Geが(111)配向していることを利用した強磁性ホイスラー合金の作製も検討した.強磁性ホイスラー合金/擬似単結晶Ge界面状態などの課題を抽出し,高品質な強磁性ホイスラー合金のエピタキシャル成長実現の可能性を提示した. 今後は,本研究室で開発したエピタキシャル成長界面のFe原子終端による,Ge原子の拡散抑制法が有効であると考えられる. 以上の成果の一部は,米国応用物理学雑誌「Journal of Applied Physics」に筆頭著者で論文が掲載されており,国内会議において2件,国際会議1件において報告している.以上のように,研究代表者は低消費電力フレキシブル・システムインディスプレイを実現するための基礎技術を確立し,実現に向けた課題と指針を見出した.
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