研究課題/領域番号 |
16J04429
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日比谷 由紀 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 安定同位体 / クロム / チタン / 核合成異常 / NWA6704 / 始原的エコンドライト |
研究実績の概要 |
本研究は、初期太陽系年代学の基準隕石を確立することにより、「惑星スケール」で「絶対年代を加味」した初期太陽系における元素分布の均質性の検証を行うことを目的とし、高精度でウラン-鉛年代が決定されている隕石について、短寿命同位体系列の年代測定とクロム・チタン安定同位体分析を行う。平成28年度には、隕石試料の高精度クロム・チタン同位体測定を行うための化学分離法の開発を行い、さらに、この手法を始原的エコンドライト隕石NWA6704に適用した。隕石の母天体は、それぞれ異なる全岩 Cr, Ti 安定同位体比をもつことが知られているため、これらの安定同位体比測定結果は、隕石母天体の形成時の温度、すなわち太陽からの距離を反映すると解釈できる。したがって、一連の高精度 Cr, Ti 安定同位体比測定により、NWA6704隕石の母天体の形成場所に新たな制約を与えることができる。その結果、NWA6704隕石の母天体は炭素質コンドライト隕石などと同じように太陽系の比較的外側において形成されていたことが明らかになった。これまでに確立されていた年代基準隕石は、太陽系内側の母天体に起源をもつことを考えると、このNWA6704隕石は短寿命核種の空間分布を調べるのに最適の隕石であると言える。今後は、この隕石について短寿命同位体系列の年代測定を実施していく。また、本研究で得られた分析法の開発とNWA6704の分析結果はそれぞれ、国際学術雑誌に投稿すべく論文執筆中であり、近々投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、本年度の計画通り、安定同位体の分析に用いる多重検出誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)を十分に操作できる技術を習得し、隕石試料からCr, Tiを同時に化学分離する方法を新たに開発した。単離した Cr, Ti の安定同位体比測定については、当初Cr, Ti双方の測定にMC-ICP-MSを使用する予定であったが、化学分離開発過程でCrフラクションからの効率的なAlの除去が困難であることが判明した為、Cr安定同位体比測定には熱励起によってイオン化を行う高精度な表面電離型質量分析計(TIMS)を用いることになった。Tiの分析については、当初の予定通り、迅速かつ高精度なMC-ICP-MSを用いた。これまでに、複数の隕石・地球試料についてのCr, Ti安定同位体比測定を実施した。本研究で得られた分析法の開発およびNWA6704隕石の分析結果はそれぞれ、国際学術雑誌に投稿すべく論文執筆中であり、近々投稿予定である。以上のことから、これまでの研究実施状況については、当初の計画通りおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、試料(NWA6704隕石)からの測定鉱物分離-酸分解-測定元素分離-高精度同位体比測定を実施することで、隕石形成時の短寿命親核種存在度を算出するとともに、その結果を既存の内側太陽系起源の絶対年代基準隕石(アングライト)と比較する。これにより、惑星スケールでの同位体の均質性 (あるいは不均質性) が達成されていたのかを検証していく予定である。また、様々な隕石の高精度 Cr, Ti 安定同位体比測定の結果を基にして、太陽系における隕石母天体どうしの空間スケールの対応関係を探っていく。これらの研究成果は、国際・国内会議で発表し、国際誌に投稿する。
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