研究課題
ブラックカーボン(以下、BC)粒子は太陽放射の吸収により大気を加熱することで、水循環や極域雪氷面の融解促進に影響を与えるが、その推定の不確実性は依然として大きい。発生したBCは輸送過程でエイジング(ガス成分の凝縮や他のエアロゾルの凝集)を受け、雲・降水過程を経て大気から除去されるが、どの物理量がBCの除去に一番大きな感度を持つかを、これまでの測定手法(フィルター分析・航空機観測)では同定できなかった。そこで本研究では、大気と降水中のBC粒径別数濃度の観測手法を確立し、両者の比で表される湿性除去効率の粒径依存性を観測することで、BCの主な湿性除去メカニズムを解明するとともに、BCの除去に最も重要な物理量を同定する。まず、降水試料から粒子を大気中に取り出す装置とレーザー誘起白熱法を用いた装置を組み合わせることで、降水中のBC粒径分布の測定手法を確立した。次に、BCの水滴取り込みメカニズムである雲粒化、雨滴衝突、雲粒衝突の粒径別除去割合を推算する鉛直一次元モデルを構築した。これらの測定・解析手法を東京と沖縄の地上観測に適用した。東京では、湿性除去効率に顕著な粒径依存性が見られたが、沖縄ではその粒径依存性が見られなかった。鉛直一次元モデルを用いた解析により、100nm以上のBCは主に雲粒化によって湿性除去を受けることがわかった。BCの被覆が厚くなると、被覆成分や大気中の最大過飽和度の変動によらず高い効率で除去される一方、裸に近いBCは被覆量や被覆成分、最大過飽和度の変動に強く依存し、除去効率が大きく変わることもわかった。さらに、BCの鉛直輸送効率は東京では約6割、沖縄では約2割と推定され、発生源近傍におけるBCの鉛直輸送の重要性を明らかにした。BC質量濃度の空間分布を気候モデルで正しく推定するためには、特に発生源近傍におけるBCの混合状態や吸湿特性、さらに大気中の最大過飽和度の推定の精度を向上する必要がある。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: -
10.1038/srep34113
日本雪氷学会誌 雪氷
巻: 78 ページ: 459‐478