研究実績の概要 |
まずはじめに,植物概日時計と炭素資源代謝のフィードバック構造を数理モデル化した.大型サーバを購入し,モデル解析の準備を整えた.解析を進めるなかで,過去の実験で示されてきたデンプン代謝の線形性の背後には,植物がショ糖量を一定にすること(ショ糖ホメオスタシスの達成)が必要であることがわかった.そして,ショ糖刺激による概日時計の位相調節が,ショ糖ホメオスタシスの維持に関与していることが示唆された.さらに,野生型の植物とショ糖応答が出来ない植物が,日長変化に曝された場合にどのような炭素動態を見せるかを数値シミュレーションによって調べた.その結果,前者でのみ日長変化に応じた柔軟なデンプン代謝の調節が行われることが予測できた.この予測は,ケンブリッジ大学の共同研究者による実証実験によって正しいことが示された.以上の結果をもとにECMTB2016においてポスター発表を行った. 次に,上述のモデルを拡張し,光合成葉で作られたショ糖の維管束を通じた輸送と,根や茎頂分裂組織などのシンク組織における成長を数理モデル化した.このモデルを用いて,野生型の植物とショ糖応答が出来ない変異体の成長をシミュレーションした.その結果,特に長日条件において,野生型の植物の成長が変異体の成長よりも大きくなることがわかった.このことは,ショ糖刺激による位相調節がもたらすショ糖変動の減少が,植物の成長の促進につながることを示唆している.以上の結果をもとに, International Symposium on Biological Rhythms,そして第23回日本時間生物学会学術大会においてポスター発表を行った.また,JSMB2016と日本生態学会第64回大会において口頭発表を行った. JSMB2016および日本生態学会第64回大会においてシンポジウムを企画した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
受入研究者と事前に入念な議論を進めていたため,数理モデル作成および解析については順調に進展し,興味深い結果を多く得ることが出来た.さらに,ケンブリッジ大学の共同研究者を訪問し,予測データについて議論を深めたことにより,数理モデルの予測を確認するデータを的確に得ることが出来た.さらなるモデルの拡張においても,受入研究者および共同研究者との議論によって迅速に進めることができた. 1つ目の成果については論文としてとりまとめ、国際誌に投稿し現在改訂中の段階である.2つ目の成果についても,論文としては投稿間近な状態まで研究が進展している. また,2つの学会においてシンポジウムを企画することで,得られた成果を広く伝えていくだけでなく,様々な研究者と深く議論をすることが出来た.
|
今後の研究の推進方策 |
植物が持つ概日時計の周期は,エコタイプによって異なることが知られている.このことから,ショ糖などの刺激に対する応答特性も地理的変異を持つことが予測される.数理モデルを用いて,様々な環境で育った植物でどのような応答特性の変異が起き得るかを予測する.また,その応答特性が,植物の原産地を考慮した場合に,成長を促進するために最適なものであるのかを数値シミュレーションによって確認する.理論予測については,可能な限り実証実験によってその正当性を確かめる. 以上の成果について,第27回日本数理生物学会年会,第24回日本時間生物学会学術大会,および日本生態学会第65回大会において発表する予定である.
|