研究課題/領域番号 |
16J04507
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
南舘 孝亮 北海道大学, 大学院理学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 分子性固体 / 有機導体 / BETS / 磁性 / 磁気共鳴 / 輸送特性 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、有機伝導体lambda-(BEDT-STF)2GaCl4、lambda-(BEDT-STF)2FeCl4を対象とし、lambda型塩において観測されたスピン液体相のフラストレーション機構、及び超伝導相の起源の解明を目指すものである。初年度はlamda-(BEDT-STF)2FeCl4を対象として、pi-d相互作用の導入により、STF分子上のpi電子系の状態が、電気的、磁気的にどのように変化するかを具体的に明らかにすることを目標に研究を行った。lambda-FeCl4塩はドナー分子上のpiスピンとFeCl4分子上の3dスピン間の相互作用(pi-d相互作用)による特異な物性が注目され、低温で現れる反強磁性相においていずれのスピン系が秩序を持つかが未解決の問題であったが、我々はドナー分子としてBEDT-STF分子を用い、lambda-(BEDT-STF)2FeCl4において圧力下における電気輸送特性、及び常圧下における静磁化率と1H-NMR測定を行い、両スピンのダイナミクスをそれぞれ具体的に明らかにした。 本研究の成果は、8月に米国で開催された国際会議Gordon Research Seminar 及び Gordon Research Conferenceでポスター発表し、3月に大阪大学で開催された日本物理学会第72回年次大会で口頭発表を行ったほか、同じく3月に神奈川で開催された「分子性固体若手の学校」でポスター紹介し、若手研究者間での意見交換を行った。また、rambda-(STF)2FeCl4の磁気的性質について研究内容について投稿論文を執筆し、Physical Review Letter誌に投稿し、現在査読を受けている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の研究過程において、lambda-(BEDT-STF)2FeCl4の圧力下電気伝導度測定、静磁化率測定、1H-NMR測定を遂行し、低温でlambda-(BETS)2FeCl4と似た絶縁化転移の観測、常圧下静磁化率の緩やかな異方性の現れ、それに伴うNMRスペクトルの広がり、緩和時間のピーク異常を観測することができた。研究の初期の段階で良質でサイズの大きい単結晶の作成に成功し、1H-NMR、静磁化率測定において、精度の高い測定が可能となったことが、研究の進展の大きな要因となっている。これによって、静磁化率とNMRスペクトルの関係性から、piスピン、dスピンそれぞれの振る舞いが具体的に明らかになり、目的の一つである、磁気的ゆらぎと超伝導相、スピン液体相との関係性を明らかにする足掛かりとなった。研究計画において初年度に実行するとした、lambda-(BEDT-STF)2GaCl4の誘電率測定による電気的な偏りの観測については、インピーダンスアナライザ、キャパシタンスブリッジ等装置の故障があり次年度への持ち越しとなったものの、13C-NMRスペクトルの測定結果から電気的なゆらぎの存在が可能性の一つとして考えられるような、線幅の増大などが観測され、誘電率測定へと繋がる研究結果が得られている。次年度実施予定の誘電測定のための試料作成も完了しており、順番が前後した部分はあるが、全体としては研究は計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、超伝導相に隣接すると考えられるlambda-(BEDT-STF)2GaCl4の常圧下基底状態が、スピン液体的な振る舞いを示す常磁性相であるのに対し、lambda-(BEDT-STF)2FeCl4においては、反強磁性相が基底状態となることを明らかにした。これを受け、次年度はGaCl4塩、FeCl4塩それぞれの電気的な自由度が反強磁性相、超伝導相、スピン液体相の安定性にどの様に関与しているのかを明らかにする。 まず、当初の研究計画通り、(1)それぞれの塩に対し複素インピーダンス法、及びキャパシタンスブリッジ法によって常圧下の誘電率を測定し、その周波数依存性を見ることによって、系内の電気的分極の有無、その大きさ、及びドメインサイズを議論する。また、電極方向の工夫により、誘電率の電場方向依存性を測定し、系内の電気分極のパターンを明らかにする。さらに、(2)赤外分光法により、各分子における電荷量、電荷分極のパターンを定量的に明らかにする。(3)所属研究機関にて河本充司教授と共同し、13C-NMRのスペクトル、緩和時間の測定結果と合わせて議論することで、ミクロな視点から分極の様子を明らかにする。また、圧力下での誘電率測定とNMR測定を行うことにより、より超伝導相近傍での磁気的、電気的な秩序を定量的に明らかにする。 以上の研究から、超伝導相と反強磁性ゆらぎ、電荷ゆらぎの関係性を議論し、両塩に見られる反強磁性相、超伝導相、GaCl4円に見られるスピン液体相の起源をそれぞれ体系的に解明する。
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