研究課題/領域番号 |
16J04552
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉橋 亮太 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 野鳥監視 / 物体検出 / 動画認識 / コンピュータビジョン / 深層学習 / 機械学習 / 環境アセスメント |
研究実績の概要 |
まず前年度の成果である動画中の鳥検出システムを拡張し,検出と追跡の2タスクを同時学習可能なニューラルネットワークを開発した.昨年度は物体検出で利用可能なフレームワークとして,1. 背景差分法による鳥候補領域の抽出,2. 候補領域の追跡による,鳥候補軌跡の生成,3. 鳥候補軌跡の深層学習による識別の3ステージからなるパイプラインを実装していた.しかしながらこの方法には鳥候補軌跡の生成には個別の既存の追跡機を利用しており,このステージでは学習の恩恵を受けられないという問題があった.今年度は追跡による候補軌跡の生成とその識別を深層学習によって同時に行う新たなフレームワークを開発した.この手法では検出と追跡が同時に単一のネットワークで行われることによる性能向上が得られ,実験により昨年度のシステムから8%程の鳥検出率の向上が可能となることが分かった.この成果はオーストラリア国立大学およびオーストラリアの国立研究機関であるData61-CSIROの尤 少迪 講師との共同研究として得られた.そのほか昨年度の成果であるTwo-stream CNNによる動画特徴量を利用した検出に関して,評価実験の拡張と論文誌への投稿を行った,こちらの論文でのアルゴリズムの評価は,より広いコミュニティに成果をアピールするために,歩行者検出に関する外部の動画データセットであるCaltech Pedestrian Detection Benchmarkを利用した.結果として開発にあたってベースとした既存の静止画による検出器からの性能向上を確認した.また当初の計画より進んだ成果として,風力発電所画像での野鳥検出と領域分割の同時学習による高精度化,UAVからの畜牛検出への新たな応用の2つに関しての研究成果が,受け入れ研究室での学生とのコラボレーションの結果として得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動画中の野鳥検出に関する学習アルゴリズムの性能向上が順調に進んでおり,また昨年度構築した野鳥動画データセットを利用したアルゴリズム・ソフトウェアの開発が順調に進んでいるため.加えて,関連する研究成果に関する論文投稿が査読中のものも含め年度内に複数回できているため.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降の計画に関しては変更があり,当初は鳥種分類に取り組む予定であったが,これは取りやめて代わりに野鳥検出器の頑健化のためのオープンセット物体検出を行うことにした.これは周辺状況を考慮しつつより学術的インパクトの大きい研究を行うための措置である.鳥種分類は鳥 / 非鳥の分類よりも細やかな差異を対象とする,詳細物体認識と呼ばれるタスクの一種であり学会では2013年頃から提唱されていた.しかしながら近年の研究においては,詳細物体認識では一般的な物体認識との理論的な差異が出しにくく,国際的には下火になりつつあるとのいう状況がある.無論,鳥種分類が応用上必要とされることは間違いないが,ここで成果が上がったとしてもエンジニアリング的要素が大きく,重要な学術的貢献とはみなされない可能性がある.そのため本研究課題における優先度は低下しつつあると判断した.これに対してオープンセット物体検出は未知物体の存在しうる実環境で利用可能な頑健な物体検出システムを可能にするためのコンセプトである.既存の機械学習では分類対象となる物体クラスがすべて学習データに現れることを前提としていたが,実環境では未知の物体が視界に出現することは大いに有りえ,そのため従来の検出器では適用する環境の変化などには十分な頑健性がなかった.これに対しオープンセット物体認識は,2010年代前半から物体の分類に関して取り組まれている技術であり,異常検知などの手法を組み合わせてテスト環境での新出物体を識別可能であるという特徴がある.しかしながら既存のオープンセット物体認識は専ら画像の分類のみで行われており,未だ画像中の物体検出でも有効な手法はない.そこで次年度はオープンセット認識における手法を拡張し,野鳥検出といった屋外での検出タスクにおいて有効なオープンセット物体検出器を構築する予定である.
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