免疫機構の破綻に起因すると考えられる顎骨骨髄炎について、HLA遺伝子群の塩基配列及びKIR受容体遺伝子群の遺伝子型を、ゲノム科学技術を駆使して網羅的に決定し、両者の遺伝子型の組み合わせの観点から、遺伝的個体差を把握することを目指して研究を進めた。全国的な共同研究のネットワークを構築し、骨髄炎患者及び健常者それぞれ18検体を収集した後、次世代シーケンサーによるターゲットリシーケンスを用いてHLA35遺伝子のタイピングとKIR16遺伝子に関するハプロタイプの解析を初めて行った。さらに、日本人健常者472名分のデータを共同研究者から新たに入手し、検証を行った。結果、KIRのテロメア側領域のハプロタイプとHLA-Cのアミノ酸置換の組み合わせが、骨髄炎患者で有意に頻度差26.3%(p値が0.0005)で存在することを発見した。これは日本人集団に低頻度でしか検出されないKIRのハプロタイプで、発症に影響を与えることを示唆するものであった。また、HLA-Cのアミノ酸置換はその不安定化に関与すると考えられた。HLAの不安定性は自己免疫疾患に関わっているといわれ、この関係の減弱が、分子レベルでどのように関わっているかは今後の検討が必要である。以上の内容を取りまとめ、論文投稿し、歯科分野におけるトップジャーナルにアクセプトされ、また、口腔外科学会では優秀発賞を受賞した。 その上で、発展的な研究として、骨髄炎の口腔微生物叢に着目した研究にも取り組んだ。患者の唾液サンプル内に存在するすべての微生物叢とその内訳をショットガンメタゲノムシーケンシングにより把握し、骨髄炎に特徴的な微生物叢とその遺伝子機能や代謝能などを推定することを目指した。患者及び健常者それぞれ5検体というサンプル数の限られた比較ではあるが、患者の放線菌に特有の遺伝子を数個見出した。
|