研究課題/領域番号 |
16J04592
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
乙丸 礼乃 東北大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | RSV / 感染伝播 / 世帯内感染 |
研究実績の概要 |
本研究ではフィリピンビリラン島のコホートで収集した情報の解析により、RSV感染症の流行動態と感染伝播の疫学について明らかにすることを目的としている。平成28年度では地理空間解析と家庭内伝播について解析を行った。2014年の1年間の内7月から12月まで、3317名のコホート児から266名のRSV症例を検出した。SubgroupはRSV AとRSV Bの混合流行であった。遺伝子型はRSV Aは全てON1、RSV Bは全てBA9で、各国で検出されている株と高い相同性を持ち、流行期間を通して同一であった。結果に基づきSubgroupを区別して、統計学的に有意な集積箇所(クラスター)の位置を時系列にプロットすると、両Subgroupでその位置は時期により異なっており、患者発生の有意な集積がある位置は時系列に変化していることがわかった。次にRSV症例を検出した世帯での家庭内伝播について解析した。Subgroupを同定した199世帯で、感染者が1名の世帯は173世帯、感染者が2例以上の世帯は26世帯であり、26世帯中25世帯が同一のSubgroupの感染であった。全世帯と比較して、RSVを2例以上検出した世帯では、5歳未満の児が3名以上である世帯の占める割合が有意に高いことから、複数のRSV感染者の発生では3名以上の5歳未満児の比率が高いことがわかった。RSVを2例検出した世帯で発症日を10日以内のものを世帯内感染として15例を同定した。Secondary Attack Rateは平均34.2%であり、5歳未満の同胞内での高い二次発症が示唆された。これらのことから、RSV感染症が家庭内で伝播しながら地域内で徐々に拡大していることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の解析内容のうち、重要な焦点であったRSV感染症の地理的な拡大過程及び5歳未満の同胞内での感染伝播についての解析を進め、2014年について終了している。同様のデータを2015年も収集できているため、引き続き解析を行い、結果の統合と考察を行う予定である。当初予期していなかったこととして、2016年についてはRSV感染症の発生が散発的であったことがあげられるが、その原因については2014年、2015年のデータ解析と合わせ考察を進める計画である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでは5歳未満児のみをコホートとしており、有症状の場合に限り検体採取及びRSVの検出を行ってきた。しかし、5歳以上の年長児及び成人の家族の感染伝播への関与や、その程度についてのデータはなく、世帯内感染の全体像と詳細な疫学的背景は不明であった。世帯内感染に対する年長の同胞や両親などの関与については、家族もコホートに含めた継続的な情報の収集及び軽症例も含めたRSV感染者の同定が必要である。5歳以上の家族がどの程度家庭内感染に関与しているかについて理解し、RSV世帯内感染の全体像を把握することは、感染拡大予防対策の考案に重要であると考える。よって世帯をコホートとした新たな研究デザインの考案と、詳細なデータ収集を計画している。研究を遂行する上での問題点として、フィリピンでは感染伝播の解析をする上で必要となる、接触の頻度を含めた情報が不足しており、これらは国や地域ごとに異なる点があげられる。この補完のために、新たなコホートでは、対象者がどの程度、どのような人と日常的な接触があるのかについての情報を収集することを計画している。
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