研究課題/領域番号 |
16J04633
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
板野 敬太 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | モナザイト / 花崗岩 / ICP-MS / 造山運動 |
研究実績の概要 |
砕屑性モナザイトを用いて造山運動の時期と性質を制約するために必要な高精度モナザイト微量元素分析法についての論文を発表した。レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)は迅速かつ高感度な分析法であるため、大量の砕屑性モナザイトの分析を行うにあたり重要となる。しかし、酸化物イオンの干渉が分析上の問題であったため、合成希土類元素リン酸塩を用いることで、酸化物イオン干渉の評価とその補正を可能とした。得られた結果から、花崗岩質ペグマタイトや石榴石を含む変成岩中のモナザイト分析時には、酸化物イオン干渉の補正は必須であることが明らかになった。 開発した分析方法を用いて日本島弧の花崗岩に含まれるモナザイトの系統的な分析にも取り組んだ。これまで不明であった火成起源モナザイトの微量元素組成をLA-ICP-MSにより決定したことで、モナザイト微量元素組成は花崗岩質マグマの化学組成や還元状態を反映することが分かった。さらに、火成起源モナザイトのEu負異常は、変成起源のものにくらべて顕著に大きく、砕屑性モナザイトの起源推定の良い指標となることが明らかになった。 モナザイト微量元素組成と形成環境の関係性のより良い理解のために、単一花崗岩体中のモナザイトの微量元素組成の不均質性についての評価を試みている。局所年代・微量元素・同位体分析を組み合わせることで、花崗岩質マグマ進化時のモナザイト化学組成の変動範囲を定量的に評価することができる。本年度では、一部分析を終了し、共存鉱物やモナザイト自身の結晶分別に起因する多様性を持つ微量元素組成データが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までにレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)によるモナザイト希土類元素の高精度・高確度分析法と日本島弧における花崗岩質岩石中モナザイトの希土類元素組成について国際学術雑誌にて発表している。また、愛知県東三河地域の武節花崗岩体の形成過程をモナザイト年代・化学組成・同位体度組成から探る研究を進めている。 LA-ICP-MSによる高精度モナザイト希土類元素組成決定は、本研究プロジェクトのモナザイトの形成条件と微量元素組成を結びつけるために必要不可欠である。希土類元素への酸化物イオン干渉の影響は、特に石榴石に富む変成岩や花崗岩質ペグマタイトに含まれるモナザイトの分析時に顕著であり、補正の必要性が明らかとなった。そこで、合成希土類元素リン酸塩を用いて酸化物形成率を見積もり、酸化物イオン干渉を補正することを可能とした。 上記の分析法を適用し、LA-ICP-MSを用いた花崗岩中のモナザイト微量元素組成の決定も行った。正確な微量元素組成を決定することで、火成起源モナザイトの微量元素組成の特徴を初めて明らかにした。長石類の結晶分別を原因とする顕著なユーロピウム負異常は火成起源モナザイトに特有であり、微量元素組成を用いた砕屑性モナザイト起源推定の指標として非常に重要であることも分かった。 現在、愛知県東三河地域の武節花崗岩体を例として、単一花崗岩体中のモナザイト微量元素・同位体不均質について検討する研究を進めている。研究成果の一部は、パリで開催された2017年Goldschmidt Conferenceにて発表を行っている。また、単一粒子の同位体と微量元素組成の組み合わせから、花崗岩質マグマの起源物質や微量元素の組成変動範囲に制約を与えることを試みている。 以上の進捗状況より、本研究プロジェクトは概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、現在進めている愛知県三河地域花崗岩に含まれるモナザイト年代測定、微量元素・同位体分析を完了することで、砕屑性モナザイトの微量元素と形成環境についてのさらなる検討を行う。単一花崗岩体中のモナザイト微量元素・同位体不均質について定量的に変動範囲を抑えることで、砕屑性モナザイト起源推定時の不確定性を議論することを可能とする。また、モナザイトの挙動は花崗岩質マグマの微量元素組成、特に軽希土類元素を支配することから、花崗岩質マグマの化学進化を研究するうえでも重要である。 これまでの研究成果により、微量元素組成を起源推定の指標として用いて、巨大河川の堆積物中の砕屑性モナザイトの年代と微量元素組成から、過去の造山運動の年代と性質に制約を与えることを可能としてきた。そこで、過去の河川堆積物である古い堆積岩を用いて、より古い時代の造山運動の時期と性質に制約を与えることを試みる。南アフリカのバーバートン緑色岩帯で採取した堆積岩等から砕屑性モナザイトを分離し、今後年代測定と微量元素分析を行う。得られた結果から、地球史を通した造山運動の変遷を明らかにし、国内・国外での学会で発表するとともに、国際学術雑誌で論文を発表することを目指す。
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