研究課題/領域番号 |
16J04681
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日置 恭史郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
キーワード | cDNA-AFLP / 遺伝子発現 / 非モデル生物 / 底質 / 生態毒性 |
研究実績の概要 |
効果的な環境汚染対策を実施するうえで、環境中に存在する多数の化学物質の中から有害影響の原因となっている物質群を特定することは重要である。近年は、汚染に曝露された生物の遺伝子発現解析が、毒性原因物質の特定に有用であると指摘されている。しかし多くの既往研究はいわゆるモデル生物や在外種に限定されている。生物の入手可能性や生態系の地域特異性を考慮すると、日本国内に実在する生物種を用いた知見の蓄積が求められる。 本研究は、ゲノム情報のない非モデル生物であるニホンドロソコエビ(Grandidierella japonica)を用いて、遺伝子発現解析による毒性原因物質の推定が可能かどうかの検討をおこなった。非モデル生物種にも適用可能な発現解析手法として、事前に塩基配列情報を要しないcDNA-AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)法を利用した。 平成28年度は、環境試料である道路塵埃および塵埃に含まれる化学物質(銅・亜鉛・ニコチン)に曝露させた後のニホンドロソコエビの遺伝子発現をcDNA-AFLP法によって解析した。12組の選択的プライマーを用いたcDNA-AFLP解析の結果、発現変動する遺伝子断片は曝露物質の種類や濃度によって大きく異なることが分かった。またニコチン曝露に関しては、曝露濃度と用量応答関係を示す8つの遺伝子断片が見つかり、ニコチン曝露のマーカーとして利用できる可能性が示された。さらにその遺伝子断片のうちの1つは、ニコチンを高濃度に含む道路塵埃への曝露時においても発現変動しており、環境試料においても曝露指標として利用できる頑健なマーカーであることが示唆された。マーカー候補となる遺伝子断片の塩基配列を解読したが、既知のマーカー遺伝子と相同性のある遺伝子は見つからなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請段階では汽水域底質を汚染試料としてその主要な汚染源を特定する予定だったが、事前の予備検討において東京湾から採取した汽水域底質のうちニホンドロソコエビに対して急性致死毒性を示す試料は確認できなかった。そのため、対象とする汚染試料を、ニホンドロソコエビへの急性毒性が確認されている道路塵埃(Hiki and Nakajima, 2015)に変更した。この変更に伴い、汚染源推定法の検討という当初の研究目的は、汚染試料中の毒性原因物質を推定する手法の検討という目的に修正せざるを得なかった。しかし、いずれの研究計画においても使用するアプローチは非モデル生物の遺伝子発現解析であるため、修正後の研究結果は当初想定していた汚染源推定にとっても有用な知見であると考える。目的修正後の研究では、上記のように非モデル生物の毒性応答解析におけるcDNA-AFLPの有用性を示すことが出来たため、おおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
1)従来の毒性原因物質の特定手法との比較をおこなう。曝露生物の遺伝子発現解析結果が、Sediment TIE(Toxicity Identification Evaluation)などの物理化学的な処理を主とした従来の特定手法と整合するかどうか検証する。 2)cDNA-AFLPを用いた検討では曝露物質に対して特異的な遺伝子断片を特定することが出来たが、相同性検索などの結果その生物学的メカニズムは明らかにならなかった。また、cDNA-AFLPは安価に新規遺伝子を探索できることが確認出来たものの、網羅的に遺伝子断片を取得するのは労力、時間を考慮すると困難である。そこで今後はより網羅的に塩基配列データを取得出来る次世代シーケンサーを併用することによってデータ量を増やし、バイオインフォマティクス手法を活用することで機能未知の遺伝子に対しても生物学的機能を推測する。
|