昨年度の研究によって、cDNA-AFLP法によって非モデル生物における新規の曝露マーカー遺伝子を探索でき、多様な化学物質を含む環境試料へも適用可能であることが示された。今年度は、これら遺伝子発現解析の結果が、Sediment TIE(Toxicity Identification Evaluation)などの物理化学的な処理を主とした従来の毒性原因物質特定手法と整合するかどうか検証した。 cDNA-AFLP解析時に使用した物と同一の道路塵埃試料を用いて、Sediment TIEを実施した。結果、陽イオン交換樹脂SIR-300を添加した系よりも炭素系吸着剤XAD-4を添加した系で有意に10日間致死率および成長阻害が低減され、有機系物質による毒性寄与が示唆された。さらにSediment TIEにおける曝露試験中の溶存態濃度の分析結果から、亜鉛、銅と遊離アンモニアよりもニコチンの道路塵埃毒性への寄与が大きいことが明らかになった。これらの結果は、道路塵埃曝露時の発現パターンはニコチン曝露時の発現パターンと最も類似していたというcDNA-AFLP解析の結果と整合しており、cDNA-AFLPによって探索されたマーカー遺伝子の頑健性を示している。ただしニコチンのみを曝露した追加実験を実施したところ、道路塵埃曝露系で検出された溶存態ニコチン濃度では有意な致死影響は見られなかった。したがって、溶存態ニコチン以外の他の未測定物質や測定物質間の複合影響が道路塵埃の急性毒性に寄与していると示唆された。 さらに次世代シーケンサーを用いて、ニホンドロソコエビのストレス応答関連遺伝子の塩基配列を取得した。金属曝露に関連するメタロチオネインや異物代謝に関わるシトクロムP450などの遺伝子の塩基配列を、相同性検索に基づき決定した。これらのデータは、今後本種を用いた生態毒性研究をおこなう上で有用な基礎知見である。
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