研究課題/領域番号 |
16J04692
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
齊藤 匠 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ヒラマキミズマイマイ / ヒラマキガイ科 / 湖沼 / 進化 |
研究実績の概要 |
日本各地の湖沼におけるサンプリングを終了したほか、日本各地、欧州、極東ロシア、台湾、フィリピンなどの広範な地域のヒラマキガイ科貝類を収集することができた。これらのサンプルをmtCO1領域などを用いて分子系統解析したところ、ヒラマキガイ科Gyraulus属とされてきた日本産の貝類の一部は欧州を中心に生息する別属の貝類により近縁であることが判明した。一方、ヒラマキミズマイマイ類についても従来記載されてきた形態種は分子系統をまったく反映していないことがわかった。さらに、東アジアのヒラマキミズマイマイ類は系統的に極めて多様で、日本列島のヒラマキミズマイマイ類は非常に複雑な形成史を持っていると推測された。また、上記の系統解析の中で、小笠原諸島のヒラマキミズマイマイ近似種は東アジアのどの系統とも異なる遺伝的特徴を持った固有種である可能性が高いことも判明した。 また、湖沼に生息するヒラマキミズマイマイ類の形態の類似性を検証するため、殻形態を測定後、主成分分析を用いて要約した形態データと生息環境のデータ、系統データを用いてマンテル検定、一般化線形モデルによる解析を行った。すると、湖沼のヒラマキミズマイマイ類は付着基質の種類に影響されて殻高が高い傾向にあると推定された。これは水流への適応であると考えられる。さらにこの変化は霞ヶ浦や児島湖など形成後間もない湖でも観測されたため、数百年の時間的スケールでヒラマキガイ類における進化的応答が発生している可能性が示唆された。 これらの成果は日本貝類学会、日本生態学会、The 3rd International Symposium of the Benthological Society of Asiaにて発表を行ったほか、現在複数の論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各湖沼でのサンプリングについては順調であった。また、系統解析も問題なく実施できたが、一部系統で交雑や祖先多型によるものと思われる系統パターンが観察された。これらを解消するため、次世代シーケンサーを用いた簡便な網羅的遺伝解析であるMIG-seq法を用いた解析を進行中である。 一般化線形モデルを用いた解析なども順調に行うことができ、付着基質が殻形態の変化をもたらす要因として有力視された。これは付着基質に安定的に付着できる殻形態をとることで水流に適応していると予想された。 一方で、琵琶湖をモデルケースとした要因の研究は順調に進展しなかった。これは野外における水流の定量的な測定が困難を極めたためで、室内実験やシュミレーションなどを用いて解決を試みている。 また、期待以上の進展として予備的に行った交配実験が順調に成功し、交雑個体が多数得られたことが挙げられる。これにより、ヒラマキミズマイマイ類は系統的差異を超えてかなりの範囲で交雑可能なことが判明したため、今後形態差の著しい別集団を親種として交配実験を行い、量的遺伝学の手法を用いることで研究の展望が大きく開けると予想される。 その他、想定外の進展として、小笠原諸島における固有ヒラマキガイの発見が挙げられる。こちらについても固有種であるより確度の高い証拠を示すため、現在MIG-seq法で解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
殻形態の変化の適応的意義については水流を人工的に発生させて付着力と形態の関係を調べるなどの室内実験を計画中である。また同時に水流と貝をコンピューター上に再現し、シュミレーションを行うことを検討している。これらの実験、検討後に本成果については論文化する予定である。 小笠原諸島の固有ヒラマキガイについてはMIG-seqによる解析が終了次第、発表、論文化を予定している。順調に解析が進行すれば、世界的にも極めてまれな海洋島における固有陸水産貝類の形成史を明らかにすることができると期待される。 さらに、湖沼におけるヒラマキミズマイマイの殻形態の変化について、極端な2系を交配させることで、その遺伝的基盤を特定することを試みる。さらに上記の水流の知見と合わせて、人為淘汰実験を計画中である。
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