研究課題/領域番号 |
16J04697
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
栗原 祐也 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 固体高分子形燃料電池 / 輸送現象 / 界面 / 高分子薄膜 / 分子動力学シミュレーション / 分子デザイン |
研究実績の概要 |
固体高分子形燃料電池の効率を向上させる上で、酸素輸送抵抗の低減は非常に重要な課題となっている。その中で本研究では、白金触媒表面を覆う高分子薄膜である、アイオノマー薄膜における酸素輸送特性に着目し、より酸素透過性に優れたアイオノマー薄膜の理論設計を目的として解析を行っている。 今年度は、アイオノマー薄膜における酸素透過メカニズムの解明を目的として、薄膜を透過する酸素の溶解速度、拡散速度を考慮した理論式を新たに構築し、その理論式に基づいて酸素輸送シミュレータの開発ならびに解析を行った。そして、溶解抵抗と拡散抵抗について評価したところ、ある一定の含水率の下では拡散抵抗の方が大きく、白金との界面における輸送抵抗が最も大きいことが明らかとなった。 しかしながら、この理論式では、薄膜の膜厚方向の不均一性が酸素輸送に与える影響について考慮し切れていないことが分かった。そこで、その後さらに理論を発展させ、化学ポテンシャルに基づく理論式を新たに構築した。この理論式を用いることで、上述した酸素の溶解抵抗、拡散抵抗について、酸素の易動度による統一的な解釈可能となると考えられる。従って、従来の理論と比較して、より厳密にアイオノマー薄膜内部の酸素輸送現象を解析できると考えられる。 また一方で、高酸素透過性を有するアイオノマー薄膜の提案に向けて、量子論的な手法である第一原理計算を用いて、新たな高分子モデルを開発した。この高分子構造の特徴として、従来の高分子よりも側鎖長を伸ばしたことで、より疎水領域が増加することが予想され、これによって酸素透過性が向上すると予想される。さらに、この高分子モデルを用いて、バルク膜の特性について解析を行うことで、モデルの妥当性について検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度から進めていた、アイオノマー薄膜における酸素の溶解速度、拡散速度に関する理論構築ならびに解析については十分に達成することができたと言える。しかしながら、その成果を踏まえて、現状の理論では考慮し切れていない要因があることが分かったことから、その点を見直して改良を行い、化学ポテンシャルに基づいた新たな理論を構築した。 また、高酸素透過性を有するアイオノマー薄膜の理論設計として、量子論的な手法を用いて高分子モデルの構築、ならびにバルク膜の特性に関する解析を行った。これにより、高分子モデルの妥当性について検証できたことから、アイオノマー薄膜としての性能評価に向けて、十分な準備が整ったと言える。 以上の点から、今年度の本研究課題の進捗としては、おおむね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に構築した、アイオノマー薄膜における酸素輸送現象をより厳密に扱うための新たな理論式に関しては、今後シミュレータの開発、ならびにそれを用いて解析を行うことで、理論の実証を進めていく。これが達成されれば、アイオノマー薄膜における酸素輸送現象、ひいては不均一な系における流動現象を包括的に扱うことができるため、非常に重要な課題であると考えている。なお、上記の実証作業に関しては、残りの期間を用いて十分達成できると考えている。 また、優れた酸素透過性を有するアイオノマー薄膜の理論設計に関しては、今年度に構築した新たな高分子モデルを用いて、アイオノマー薄膜としての性能評価を行っていく。さらに、得られた結果を従来のアイオノマー薄膜と比較することで、薄膜の構造的な観点から、酸素透過性が高くなる要因についても結論づけていく方針である。
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