白金表面上アイオノマー薄膜における酸素透過現象を解析するにあたって、前年度より理論式の構築とシミュレータの開発を進め、それを用いてアイオノマー薄膜の酸素輸送抵抗を評価した。その結果、アイオノマー薄膜全体の酸素輸送抵抗は、シミュレーションによる計算結果と非常に良い一致を示し、従来よりも遥かに高精度な酸素輸送抵抗の評価手法を確立した。この成果は、米国電気化学会のECS Transactionsで発表した。さらに、酸素輸送抵抗の含水率依存性を解析した結果、含水率上昇に伴いアイオノマー薄膜全体の酸素輸送抵抗が増加することに加え、全ての含水率において、ionomer/Pt界面の酸素輸送が律速であることを明らかにした。この成果は、Elsevier社のJournal of Power Sources、及び国内外の学会にて発表した。 また、従来よりも酸素輸送抵抗の低いアイオノマー薄膜の提案に向けて、高分子側鎖の影響に着目し、量子化学計算により新たな高分子モデルを構築した。これを用いて、側鎖長による酸素輸送抵抗への影響を解析した結果、特に白金表面の吸着水の量との強い相関が見られ、吸着水が少ないほど低い輸送抵抗を示すこと、そしてそれに伴う薄膜構造の変化を明らかにした。次に、官能基の影響として、従来とは異なる官能基を導入したことで酸素輸送抵抗が低下し、こちらも同様に白金表面の吸着水の量と相関が見られた。しかし、官能基の導入よりも側鎖長の変化の方が、より大きく酸素輸送抵抗に寄与した。従って、高分子の側鎖長を最適化することで、酸素輸送抵抗の低減が期待できることが示唆された。 よって、これまでの成果を通して、白金表面上アイオノマー薄膜における酸素透過現象に関する理論の構築及びメカニズムの解明、そして酸素透過に優れたアイオノマー薄膜に関する設計指針の提案を行ったことで、本研究課題の目的は達成されたと考える。
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