研究課題/領域番号 |
16J04751
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
飯塚 俊輔 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | アデノウイルスベクター / 遺伝子治療 / 新生児 / 肝臓 / 血友病 |
研究実績の概要 |
本研究では、遺伝子導入用ベクターとして優れた特長を有するアデノウイルス(Ad)ベクターを用いて、先天性遺伝子疾患に対して新生児期から遺伝子治療を行うことを目的としている。これまでに、Adベクターは新生マウスにおいても高い遺伝子導入効率を示すものの、搭載遺伝子の発現が徐々に低下することを明らかとしている。この原因として、Adベクター投与後にわずかに発現するAd タンパク質により、組織障害が誘導されたことが原因であると考えられた。そこで、当研究室で独自に開発された肝臓特異的なmicroRNA であるmiR-122a を利用して、肝臓におけるAd 遺伝子の発現を抑制可能な改良型Adベクター(Ad-E4-122aT)を用いて、新生児に対する遺伝子治療を行うことを目指した。 まず、Ad-E4-122aTが新生仔マウス肝臓においてもAd遺伝子の発現を抑制可能であるか検討したところ、従来型Adベクター投与群と比較して、Ad遺伝子の発現は1/10以下に抑制されていた。さらに、Ad遺伝子の発現を抑制することで、肝障害が抑制され、Ad-E4-122aTは従来型Adベクターと比較して搭載遺伝子をより長期的かつ高効率に発現させることが可能であることを明らかとした。次に、血友病Bの治療遺伝子である血液凝固第9因子(FIX)遺伝子を搭載したAd-E4-122aTを作製し、血友病Bモデル新生仔マウスに対する遺伝子治療効果を検討した。その結果、治療域を示すFIX発現が投与後200日以上観察され、またphenotypeの有意な改善が認められた。さらに、FIX発現Ad-E4-122aTを繰り返し投与することで治療効果が増強され、血友病Bマウスのphenotypeを野生型マウスと同程度にまで回復させることに成功した。 上記の結果により、Ad-E4-122aTの血友病B新生児に対する有効性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでに得られた知見をもとに、改良型Adベクターを用いて新生児に対する遺伝子治療が可能であるか検討を行った。本年度はAd-E4-122aTの新生仔マウスにおける遺伝子導入特性を明らかとすることを目標としたものの、順調に研究が進み、次年度の大きな目標の一つであった、血友病Bモデル新生仔マウスへの遺伝子治療を同時並行して進めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果をもとに、次年度は新たな対象疾患である血友病Aに対する遺伝子治療を試みる。血友病Aに対する治療遺伝子である血液凝固第8因子(FVIII)は血中半減期が約12時間と短く、血中半減期を向上させることで、治療効果を増強させることが期待される。これまでに、免疫グロブリンGのFc領域とFVIIIを融合させることで、血中半減期を2倍以上に向上させることが報告されている。そこで、免疫グロブリンのFc領域と融合させた改良型FVIIIを遺伝子工学的に作製し、より治療効果の高いFVIIIの開発を試みる。またこれまでの検討から、Ad-E4-122aTの新生仔マウスにおける遺伝子導入効率が成体マウスと比較すると劣ることを明らかとしており、Ad-E4-122aTにさらなる改変を加えることを予定している。当研究室の過去の検討から、アデノウイルスのファイバーノブ領域のC末端にリシン残基を7つ付与することにより、Adベクターの肝臓への集積性が向上することが明らかとなっている。そこで、同様の改変をAd-E4-122aTに加えることで、肝臓への遺伝子導入効率が改善されるか検討する。最終的に、新たに改良を施したAd-E4-122aTに改良型FVIIIを搭載し、これを用いて血友病Aモデル新生仔マウスに対する遺伝子治療効果を検討する。
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