研究課題/領域番号 |
16J04752
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 浩之 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | ワイルフェルミオン / カイラル反強磁性体 |
研究実績の概要 |
本年度は、6本の論文を執筆し、12件の学会・研究会発表を行った。 研究課題であるワイルフェルミオンの物性に関しては、以下の内容で3本の論文を執筆した: (1)有機金属構造体を用いたワイルスピン液体を含む多様な3次元キタエフスピン液体の設計。ワイルスピン液体は、電荷中性な素励起であるスピノンがワイル分散を持つ系であり、格子歪みが有効電磁場として作用することでその性質を動的に制御できると期待される。 (2) 2次元のワイルフェルミオンを有するハニカム格子光格子系において、格子歪みが誘起する有効磁場と分子間の双極子相互作用を用いて中性分子系で分数量子ホール状態を実現する手法を提案。本論文はPhysical Review Aに掲載された。 (3) Mn3Sn族籠目反強磁性体の磁気構造の、熱的安定性の解析とスピン流による制御手法の提案。この物質群はワイル金属性を有し、磁気構造を通じて電子状態を制御できるという特異な性質を持つため、本研究は物質系のワイル電子を動的に制御する具体的な手法を与えている。本論文はPhysica Status SolidiのAntiferromagnetic spintronics特集号に掲載された。 これらに加え、(3)の研究で得た(確率的)ランダウ・リフシッツ・ギルバート方程式によるスピン系ダイナミクス解析の知見を用いて、軌道角運動量を持ったレーザー光である光渦を磁性体制御に用いる手法の提案で2本の論文を執筆した。特に、光渦による空間的に非一様な加熱が、カイラル磁性体にスキルミオンを含む多様なトポロジカル欠陥を生成できることを明らかにした研究は、光渦による固体電子物性制御の先駆けとして評価されPhysical Review BのEditor’s Suggestion paperに選出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の申請後、物性研究所中辻研究室でMn3Sn関連物質が巨大な異常ホール効果を示すことが実験的に発見され、かつ第一原理計算によってその輸送特性が当該物質のワイルフェルミオン性に起因することが示唆された。この発見をうけ、我々は、当該物質の磁気構造のスピントロニクス的手法によるコントロールを提案した。これは、本課題で目標とする、物質中のワイルフェルミオンの動的制御の基礎となりうる重要な進展である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、3次元ワイルフェルミオンの動的制御が可能な現時点で唯一の物質群であるMn3Sn関連物質の機能開発を中心として研究を進めていく予定である。具体的には、磁気構造のより高度な空間・時間的制御によってワイルフェルミオンを自在にコントロールする手法を研究し、ワイルフェルミオンの制御から発現するベリー位相に由来した物理を探索していく。
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