研究課題/領域番号 |
16J04781
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
秋葉 和人 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | グラファイト / 非破壊型パルス強磁場 / 超音波測定 / 黒燐 / 圧力 / 電気伝導測定 / 半金属 |
研究実績の概要 |
パルス強磁場下における超音波測定技術の確立に向け、数値処理を主体とした手法の開発に取り組んだ。今回開発した手法では、従来の手法でアナログ素子が行っていた処理をプログラミングにより数値処理に置き換えたことで、測定時に必要だった手順の多くが省略された。また測定の生データを記憶装置に保存することで測定後に条件を変えた再解析が可能であり、解析の自由度の向上に成功した。この新たな手法を用いて、グラファイトを含む様々な物質に対してパルス強磁場下の超音波測定を行った。グラファイトについては磁場中での変化を捉えるには至っていないが、(Bi, Sb)や(Pb, Sn)Teなどの系において55 Tまでの超音波吸収係数・音速の磁場変化に巨大な音響de Haas-van Alphen振動を観測することに成功した。さらに、より発生時間幅の短い75 T級マグネットを用いたCo酸化物に対する測定にも成功しており、最大75 Tに至る超音波測定が可能になりつつある。 また圧力下における黒燐の電気伝導測定を行い電子状態の解明に取り組んだ。ほぼ常圧下の半導体状態では、複数のキャリアの存在を示す非線形なHall抵抗を観測し、2キャリアモデルによるフィッティングから2種類の正孔キャリアが共存している可能性を明らかにした。また半金属状態ではほぼ同じ数密度を持つ電子・正孔キャリアの存在を明らかにし、半金属黒燐の電荷補償性を示すと同時に、圧力によるキャリア数制御の有効性を示した。ただし半金属黒燐の電子・正孔キャリアには有限のキャリア不均衡が存在しており、このキャリア不均衡を仮定して2キャリアモデルで磁気抵抗効果のシミュレーションを行ったところ、実験で観測された8000倍を超える巨大な磁気抵抗効果を完全に再現することが出来ないため、このモデルを超えた機構が半金属黒燐の巨大磁気抵抗効果に寄与している可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新たに開発した超音波測定技術は、複数の物質で55 Tまでの強磁場下における測定に成功したことで有効性を確立した。本年度中に加えて行う予定であったグラファイトの超音波測定と黒燐のパルス強磁場・圧力下の電気伝導測定が若干遅れているものの、来年度に行う予定であった75 T級パルス強磁場下の測定技術の開発を前倒しして行い、今後研究を進めていく上で重要な多くの知見を本年度中に得ることが出来た。Co酸化物に対する測定に成功したことで、開発した測定系を75 T級マグネットへほぼそのまま移植可能であることを確認できた。また従来の装置を用いた測定系を75 T級マグネットへ移植する際に懸念されていた問題は、装置の応答時間が磁場発生時間に対して無視できないことであったが、新たに開発した手法ではこの問題を解決できていることを確認できた。以上を総合的に判断して、本研究課題はおおむね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
グラファイト(HOPG)の超音波測定を行うに当たって、常温・零磁場でも安定したエコーが観測できないという問題に直面している。この一因として、HOPGが面内で複数のハニカム格子がモザイク状に組み合わさったような構造のために、その界面で超音波の反射が不規則に繰り返されることで規則正しいエコーが観測できていない可能性が考えられる。そのため今後はグラファイト試料の中でも結晶性が良いとされるKishグラファイトに対する実験を計画している。またパルス強磁場・圧力下の測定に関して、従来計画していた強化プラスチック製Bridgmann型圧力セルでは想定した圧力を発生するのが難しいことが判明したため、より高圧力の発生が期待できるダイヤモンドアンビルセルに仕様を変更して開発を進めて行く予定である。
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