研究課題/領域番号 |
16J04833
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
河野 直子 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 原子分子 / 静電リング / 孤立分子 |
研究実績の概要 |
本研究では孤立した炭素分子負イオンC10-の冷却過程を解明することを目的とした.C10-は真空中において直鎖状と単環状の2つの構造をとりうる最小の炭素分子負イオンであり,小さいイオンCn-(n<10)において見られる電子構造に起因する冷却過程の偶奇性が崩れ始める興味深い炭素負イオンである.本年度は実験環境を変化させることでC10-に関する新しい知見を得るべく,以下の2つの実験に取り組んだ. 1. スウェーデンのストックホルム大学に首都大学東京の海外派遣プログラムの支援を受けて短期留学し,極低温静電型イオン蓄積リングを用いてC10-の光吸収誘起電子脱離スペクトルを測定した.この装置は首都大学東京が所有している静電型イオン蓄積リングと原理が共通している実験装置だが,イオン源の種類や環境温度,蓄積可能時間などについて大きな違いがある.これらは冷却過程において重要なファクターであり,同種のイオンについて首都大学東京での結果と比較することで,新たな知見が得られると期待した. 実験では,真空中に蓄積したC10-イオンに波長可変レーザーを照射し,電子脱離によって生成された中性粒子の量を,レーザー波長ごとに検出した.ストックホルムでの実験において,蓄積C10-に照射するレーザー波長を500nmから600nmまで掃引したところ,2つのピークが見られた.ひとつはネオンマトリックス中における光吸収スペクトル測定や理論計算により直鎖型C10-が電子準位を持つことが報告されている波長であったが,ひとつは該当する文献値がなく,新しい準位や吸収帯を発見したと考えられる. 2. 帰国後,首都大学東京において同様の方法で実験を試みたところ,文献値のある560nm付近のピークについてはストックホルム大学での結果を概ね再現した.残るひとつについても,近々実験・解析を行う予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストックホルムへの留学を通して,炭素分子負イオンC10-という同じ物質に対して二つの装置で異なる温度での実験を行うことでこれまでに例のない比較実験が可能となった.発見した新しい吸収帯に関する多面的なアプローチを進めることができており,共同研究としての論文投稿の準備をしている段階である. また,これまで本研究に付随して行ってきた小さい炭素分子イオンC4-, C6-の冷却過程に関する実験結果も論文投稿の準備が進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
ストックホルム大学での実験においてより大きなピークが見られた波長領域とネオンマトリックス中における報告値のある波長付近において首都大学東京で再現実験をし,560nm付近のピークが直鎖型C10-の電子励起準位によるものなのか確認する. ストックホルム大学での追加実験が必要になれば実行し,先方と連絡を取り合いながらこれらの結果をまとめる.
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