研究課題/領域番号 |
16J04866
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
杉山 在生人 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 蛋白質工学 / 抗体工学 / スクリーニング / 進化工学的手法 / がん治療 / 二重特異性抗体 |
研究実績の概要 |
本研究では、高い薬効を有するがん治療抗体を効率的、かつ確実に取得する手法を開発し、薬効発現の必要条件を抽出しながら高薬効抗体を設計していく方法論の提案を目標としている。 本年度は、1.シグナルスクリーニングの構築を目指したレポーターアッセイ系の構築、2.ランダム配列化抗体を提示したファージライブラリーの作製、3.標的蛋白質の設計・発現系構築を行い、シグナルスクリーニングの検出系構築のための基盤技術確立にむけた展望を示すことを目指した。本年度の研究成果は以下の通りである。 1.シグナルスクリーニングの構築を目指したレポーターアッセイ系の構築: リンパ球上の標的蛋白質(CD3)を介した活性化シグナルが細胞内へと伝達されると、入力された活性化シグナルに呼応した発光反応が生じるレポーターアッセイ系を利用して、抗体の活性化シグナルを数値化することに成功した。また、抗体種の違いによって活性化シグナルが異なることも実証でき、シグナルスクリーニングへと利用可能な可能性を示すことに成功した。 2.ランダム配列化抗体を提示したファージライブラリーの作製: シグナルスクリーニングに用いる抗体ライブラリーの作製を行った。活性化シグナル伝達抗体として知られるOKT3抗体を、変異導入法であるエラープローン法を利用することで配列をランダム化させ、ファージ上へ提示することに成功した。 3.標的蛋白質の設計・発現系構築: 乳癌等で過剰発現が認められるHER2をがん細胞側の標的として設定し、細胞外領域の全長サイズ、細胞外領域の1ドメインサイズ、ペプチド鎖サイズでHER2断片を各種設計した。HER2の細胞外ドメイン領域には、10を越えるジスルフィド形成箇所があったため、全長サイズ、および1ドメインサイズに関しては、動物細胞を用いてそれぞれ発現させた。ペプチド鎖サイズの断片は大腸菌発現により、それぞれ精製に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、シグナルスクリーニングの構築を目指したレポーターアッセイ系の構築を行った。リンパ球上の標的蛋白質(CD3)を介した活性化シグナルが細胞内へと伝達されると、シグナルに呼応した発光反応が生じるレポーターアッセイ系を利用して、抗体の活性化シグナルの数値化に成功した。この検出系をスクリーニングへと応用するには、抗体をファージ表面に提示させた状態で検出する必要がある。このため、次に活性化シグナル伝達抗体として知られるOKT3を提示させたファージを作製し、OKT3提示ファージを用いて添加pfu量、検出時間、検出溶液条件等、種々の条件を検討したものの、活性化シグナルは検出されなかった。このため、本技術は結合性スクリーニングによって選抜されたクローンに対して利用することとした。 また、標的蛋白質の設計・発現系構築: 乳癌等で過剰発現が認められるHER2をがん細胞側の標的として設定し、細胞外領域の全長サイズ、細胞外領域の1ドメインサイズ、ペプチド鎖サイズでHER2断片を各種設計した。まず、大腸菌による発現を試みたものの十分量のHER2断片を調製できなかった。そこで、HER2の細胞外ドメイン領域に含まれる10を越えるジスルフィド結合が調製を困難にしていると考え、CHO細胞による動物細胞発現を試みた。また、発現量および安定性を向上させるためHER2断片にFc断片を融合させた融合蛋白質を設計・作製し、安定発現株をクローニング後大量調製を行ったところ、目的とするHER2断片を高い精製度で調製できた。 本年度予定していたシグナルシグナルスクリーニング系の確立はできなかったものの、ファージからクローニングした抗体に対する評価プロセスの構築として応用できることを示せた。また、ファージを用いたバイオパニングに不可欠な標的の調製にも成功したため、本年度は予定内容のうち、おおむね達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、実際にバイオパニングによる複数の結合性ファージクローンの取得を目指す。取得された抗体に関しては、遺伝子配列を特定し、がん細胞結合抗体とリンパ球結合抗体を融合させることでがん治療低分子抗体遺伝子を作製していく。さらに、既開発の薬効スクリーニングを用いて実際に薬効を有しているかを評価していく予定である。
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