本研究では、高い薬効を有するがん治療抗体を効率的、かつ確実に取得する手法を開発し、薬効発現の必要条件を抽出しながら高薬効抗体を設計していく方法論の提案を目標としている。本年度は、これまでの研究により確立した利便性の高い低分子抗体スクリーニング系にファージ提示法を使った進化工学的手法を組み合わせることで従来手法よりも高い効率で有望クローンを取得することに成功した(1).また,低分子抗体であるディアボディのリンパ球活性化度を評価する手法の確立に成功し,かつ,標的分子に対する結合活性,および細胞傷害活性とリンパ球活性化能力に相関があることを見出した(2).
具体的には,1. Her2に対する結合性抗体をM13ファージウイルスに提示させ,バイオパニングによって取得することに成功した.本バイオパニングには,昨年度作製した乳癌等で過剰発現が認められるHER2の細胞外領域の全長、細胞外領域の1ドメイン、ペプチド鎖のサイズの異なる各HER2断片を標的分子として利用した.実際に取得した結合性抗体はHer2特異的に結合することがわかった.さらに取得されたHer2結合性抗体とがん細胞に過剰発現するEGFRに対する結合性抗体から二重特異性抗体を構築し,大腸菌にて発現,精製したところ,この二重特異性抗体はHer2陽性細胞に対して高い細胞傷害活性を示し,その有効性を証明することができた. 2.ディアボディは結合価数が1であるため,がん細胞の非存在下ではリンパ球を活性化せず,がん細胞とリンパ球がいずれも存在するときのみディアボディのリンパ球活性化能が発現することがわかった.また,リンパ球に対する結合活性が向上してもディアボディのリンパ球活性化能には寄与しなかったのに対し,がん細胞に対する結合活性の向上はリンパ球活性化能を向上させることが明らかになった.
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