今日の社会における統計教育の意義を明らかにした上で,教授単元という形で我が国の統計教育カリキュラムの開発に向けた理論的整備を行った。 まず,統計的探究において教育的対象にすべきものは問題設定プロセスであり,他者との共通了解を目指しながら問題解決プロセスの前提を構築することであることを示唆した。そして,この点を踏まえながら,統計教育の今後の在り方を検討した。その結果として,単元レベルにおいて、一般的活動レベルから指示的活動レベルへのモデリングが問題設定プロセスを考慮する手立てになること,そして授業レベルにおいて,問題解決プロセスの前提の検証を行うことが問題設定プロセスを考慮する上での手立てになることを示した。 次に,統計教育カリキュラムの開発を目指した方法論を構築した。教授単元の設計では,教授単元の4つの条件を目標と内容に要約し,目標としては批判的思考を中核に据え,内容は環境問題を題材としながら因果探究を扱うことを主張しながら,具体的な教授単元を設計した。このことは,教授単元の性質上,少し変更を加えれば小学校レベルの問題になり,また別の変更を加えれば中学校や高等学校の問題になることを意味している。次に,教授単元の展開では,モデリングに焦点を当て,モデリング活動の枠組みを作成し,教授学習過程に対して示唆した。最終的に,統計教育カリキュラムの開発方法論を提案した。この開発方法論は,学問知(研究)と実践知(指導)の往還を基にして,5つの成分(文化的・社会的・制度的・教授的・個人的なレベル)からなる社会的過程を位置付けることによって,社会と理論を往還する中心に教授単元の還元論的設計を,理論と実践を往還する中心に教授単元の全体論的展開を設定し,そしてこれらの2つの往還全体を,統計教育カリキュラムの開発方法論のシステムとして提案した。
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