研究課題
研究1年目の目標は、貨幣と株式の二つの資産と失業を導入した動学的一般均衡モデルを構築することであった。そのために、まずはこれまで自身が行った既存研究である貨幣と株式の二つの資産にバブルが同時に発生する理論モデルとバブルと失業の関係を分析した理論モデルをより応用しやすい形で再構築し、また様々な方向に拡張し、それらの理論モデルの分析を行った。まず貨幣と株式の二つの資産にバブルが同時に発生する理論モデルの研究では、定常状態における安定性を明らかにすることによって、経済の局所的な動学的性質を明らかにすることができた。特に二つのバブルが同時に発生する定常均衡は鞍点であり、局所的に定常均衡に収束する安定な鞍点経路が存在することを示すことができた。この研究成果は2016年度日本経済学会春季大会で報告を行った。バブルと失業の研究では失業率が低い時にのみバブルが発生する可能性があることを示し、バブルの発生には労働市場の環境が深く関連していることを示した。特にサーチコストや、労働者の賃金交渉力、失業手当が高い時には失業率が高い傾向にあり、バブルは発生しないことを明らかにした。また急激な労働市場の環境の変化はバブルを崩壊させ、低い経済成長率と高い失業率の経済に移行させること示した。この研究結果は経済の研究雑誌であるOxford Economic Papers掲載された。上記の結果に基づき、今年度の目標である動学的一般均衡モデルの構築は順調に進み、経済に失業が存在するモデルにおいても二つのバブルが同時に発生する可能性があることを確認することができた。また二つのバブルが経済に同時に発生する条件は労働市場の環境も深く関係していることを明らかにすることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題は、当初の計画に以上に進展している。理由は初年度の目標である理論モデルの構築だけではなく、様々な応用研究にも発展し、以下の二つの研究結果を論文としてまとめることができたからである。1.バブルと失業と経済成長の関係をR&D型の内生的成長モデルを用いて分析した。特にバブルと失業の動学的性質を明らかにすることにより、経済の環境が変化した時のバブルの内生的発生や崩壊と失業の関係を示すことができた。経済にバブルが発生している状態から、サーチコストの上昇や賃金交渉力の上昇はバブルを崩壊させ、失業率を上昇させることを、その動学的性質から明らかにした。この研究は神戸大学のDiscussion paperとして公表された。2.バブルと失業の関係を金融市場の不完全性が存在する理論モデルを用いて分析をした。経済に貯蓄手段や家計同士の資金の貸借が不可能な金融市場の不完全性が存在する場合には、バブルが資本蓄積に与える影響として、クラウドイン効果がクラウドアウト効果より強い時に資本蓄積を促進し、失業率を押し下げることを明らかにした。この研究成果は関西学院大学のDiscussion paperとして公表された。
本研究は今後以下の二つの内容に従い進める予定である。1. 構築した理論モデルを用いてバブルが発生、崩壊した場合の失業率の影響と失業率を最小にする経済政策を分析する予定ある。分析の際には解析的な解が得られるとは限らないため、数値計算によるシミュレーションを実行する可能性もある。2. 研究結果を学会・セミナー等で報告し、コメントに基づき、論文としてまとめ国際学術への投稿の準備をする予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Discussion Paper Series, Graduate School of Economics, Kwansei Gakuin University
巻: 156 ページ: 1-35
Oxford Economic Papers
巻: 68 ページ: 1084-1106
10.1093/oep/gpw032
Discussion Paper Series, Graduate School of Economics, Kobe University
巻: 1642 ページ: 1-32