研究課題/領域番号 |
16J05036
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 真 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | プログラム合成 / アリール化芳香族化合物 / C-H結合直接アリール化 / [4+2]付加環化反応 |
研究実績の概要 |
ベンゼン、チオフェン、ピリジンなどの芳香族化合物群は、機能性分子における最重要骨格のひとつである。特に芳香族置換基(アリール基)で置換された芳香族化合物群は、光電子機能性材料や生体機能性材料に頻繁に見られる。アリール基の性質に起因して分子全体の電子的性質や構造が大きく変化するため、分子の機能を発現する上でアリール基は重要な役割を担っている。したがって、芳香族化合物への自在なアリール基の導入は、分子機能の精密制御の実現を意味する。芳香族化合物への効率的なアリール基導入法としては、C-H結合直接アリール化反応が近年精力的に研究されている。当研究室では既にチオフェンやチアゾールが有する複数のC-H結合に順次アリール基を導入することで、アリール化された5員環ヘテロ芳香族化合物の自在合成を達成した(プログラム合成法)。しかしながら、C-H結合直接アリール化反応により6員環芳香族化合物(ベンゼンやピリジン)にアリール基を位置選択的に導入することは未だ困難である。本研究員は、C-H結合直接アリール化反応によりアリール化された5員環ヘテロ芳香族化合物の環変換反応をもちいて、アリール化された6員環芳香族化合物群のプログラム合成法の開発を行なっている。これまでの研究において、C-Hアリール化反応によって自在合成可能なテトラアリールチオフェンオキシドとジアリールアセチレンの[4+2]付加環化反応によりヘキサアリールベンゼンの自在合成法を確立した。さらにジアリールアセチレンの代わりにアリールニトリル、ベンザインを用いることでペンタアリールピリジン、テトラアリールナフタレンも自在に合成可能とした。また、マルチアリール化されたアライン類とチオフェンオキシドの付加環化反応を利用することでマルチアリール化されたアセン類の自在合成にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、アリール化された5員環ヘテロ芳香族化合物の環変換反応をもちいて、アリール化された6員環芳香族化合物群のプログラム合成法の開発を行なっている。テトラアリールチオフェンオキシドとベンザインの[4+2]付加環化反応を参考に、マルチアリール化されたアセン類を標的化合物群とした。テトラアリールチオフェンオキシドをジエンとして用い、新たに種々のジエノフィルを適用することでマルチアリール化されたアセン類の自在合成法の開発を行った。ジエノフィルとしてマレイミドを用い、テトラアリールチオフェンオキシドを3工程の変換を経てテトラアリールベンザインへ誘導した。その後、もう一分子のテトラアリールチオフェンオキシドと付加環化反応することで、アリール基が全て異なるオクタアリールナフタレンを合成することに成功した。さらにテトラアリールチオフェンオキシドとベンザインの二度の付加環化反応によってマルチアリールアントラセンの合成を試みた。具体的には、逐次的に2度のベンザインを発生可能なダブルベンザイン前駆体を設計し、オクタアリールアントラセンの合成を達成した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、アントラセンの炭素-水素結合がすべてアリール基で置換されたデカアリールアントラセンの自在合成法の開発に取り組んだ。昨年度の研究結果を参考に、新たに二つのアリール基で置換されたダブルベンザイン前駆体を設計した。設計した前駆体はイミド部位およびトリメチルシリルトリフラート部位をそれぞれ有しており、異なる条件においてベンザイン発生が可能である。3-メトキシチオフェンを出発原料として用い、チオフェンのアリール化および[4+2]付加環化反応を駆使することで、計10工程でダブルベンザイン前駆体を合成することに成功した。続く、逐次的なテトラアリールチオフェンオキシドとの2度の[4+2]付加環化反応は低収率ながらも進行し、9種類のアリール基からなるデカアリールアントラセンを合成することに成功した。今後は各工程の収率の改善を行うとともに、単結晶X線構造解析による構造決定・光物性測定によりデカアリールアントラセンの構造的・電子的性質を明らかにしていく予定である。
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