研究課題
本年度の研究は全脳全細胞解析をはじめとして、全身全細胞解析に向けて大きな進捗のある一年となった。全脳に含まれる全細胞をもれなく観察可能とすることは全脳全細胞解析を行う上で必須な条件である。組織膨潤法を組織透明化法と組み合わせることで、全脳の全細胞を観察可能とする技術基盤を構築した。さらに高解像度および高速なライトシート顕微鏡と組み合わせることで、実質解像度が0.65マイクロメートルのイメージングシステムを構築することに成功した。これを用いて全脳を観察することで、約14テラバイトのデータ容量からなる、全脳高解像度画像を作り出した。核染色を導入することで、全細胞を染めることで全脳の全細胞の検出を試みた。全脳の全細胞を検出するには高速な細胞検出アルゴリズムが必要であるがグラフィックプロセッシングユニットを導入することで大規模データを2日ほどで処理した。検出された全細胞に対して領域情報を加えることで、一細胞解像度マウス脳アトラスの創出に成功した。本研究のコンセプトは全身に対しても適応可能であり、全身全細胞解析に向けた大きな一歩を踏み出すことに成功した。
2: おおむね順調に進展している
全脳全細胞解析を実施することで、一細胞解像度マウス脳アトラスを構築した。この応用は幅広いが、マウス脳の発達の度合いを一細胞レベルで解析することに応用を行った。その結果、マウスの臨界期に対応する時期において、体性感覚野および視覚野の皮質第2から4層にかけて有意な細胞数の現象が観察された。また、細胞の活動を観察するために、Arc-dVenusマウスを用いて薬物刺激後に観察を行った。薬物未投与のコントロール郡とともに、一細胞解像度アトラスにマッピングを行い、細胞の活動を一細胞解像度で解析を行った。これにより、海馬の歯状回顆粒細胞層が上層と下層で機能的に別れていることを同定した。このような解析は、細胞活動以外の情報、例えば細胞腫情報でも可能であり脳領域を機能に基づいて正確に同定することができる。このような解析のコンセプトは全身にも応用可能で、全身全細胞解析が可能となれば、個体レベルのシステムバイオロジーの実現に飛躍的に近づく。
個体レベルのシステムバイオロジーを実現するためには、個体に含まれる全細胞を一細胞解像度で検出する手法が求められる。そのためには、個体の全身を骨を含めて透明にする手法の開発が必須である。本研究では、全身を透明にする試薬をすでに開発をしている。しかしながら、全細胞をもれなく観察するためには、非常に高い透明度が求められるため、現在のプロトコルをさらに改善することで、全身透明化プロトコルを最適化したものとする。そのような手法を通して透明化されたマウスとライトシート顕微鏡を組み合わせることで、全身全細胞解析を行う。核染色を用いて全細胞をもれなく観察することをはじめとして、レポーターマウスやラベルされた免疫細胞を導入することで全身の免疫細胞を特異的にかつ包括的に検出をする。膨大な情報量になることが想定されるため、最適化されたアルゴリズムを開発し、正確な網羅解析を目指す。物理刺激や薬物刺激などさまざまな条件を模索することで、全身の免疫細胞の局在を骨内部を含めて観察を行う。
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Nature Neuroscience
巻: 21 ページ: 625-637
doi.org/10.1038/s41593-018-0109-1