研究課題/領域番号 |
16J05060
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
松岡 丈平 山口大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | ランダム値インパルス性雑音 / Non-local median filter / 雑音除去 / カラー画像 / 非局所処理 |
研究実績の概要 |
デジタルカメラ等で撮影される画像は,画素と呼ばれる点の集合で画像を表現している.モノクロ画像の場合,各画素は0~255の値で明るさを表現している.カラー画像では一つの画素が赤・緑・青の三つの色成分をもち,各成分の0~255の値の組み合わせによって約1677 万の色を表現できる.画像処理では,本来の被写体には存在しない色のことを雑音と呼ぶ.雑音による劣化は視認性や画像解析の容易性を低下させてしまうため,デジタル画像を利用する機会が増加している現代では,画像処理による雑音除去が望まれている.一方,撮影環境や撮影機器の特性上,雑音の発生そのものを防ぐことは不可能であるといわれている.本研究では,撮影後の画像に対して処理を施すことで,雑音により劣化した画像を劣化前の画像に近づける雑音除去手法を開発することを目的とする. 当該年度では,平成27年度に提案したモノクロ画像を対象とした雑音除去手法(Switching non-local median filter: SNL-med)を拡張し,カラー画像を対象とした手法を開発した. SNL-medの処理は,雑音検出処理と雑音除去処理に分けられる.雑音検出処理では画像内から雑音が発生した画素を抽出する.雑音除去処理では雑音の発生する前の情報を推定し,処理対象の画素を推定値で置き換える.雑音除去処理は、雑音検出処理によって抽出された画素にのみ施す.SNL-medをカラー拡張するにあたり,雑音検出処理,雑音除去処理それぞれに改良を加えた.雑音検出処理では,カラー画像の色成分間の画素値の差を用いることでSNL-medよりも高精度な雑音検出を実現した.雑音除去処理では,カラー画像の一画素を三つの色成分からなるベクトル信号として扱うことで,カラー画像を対象とした処理へと拡張した. これらの成果は,学会誌論文2件,および国内会議論文1件としてまとめた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では,平成27年度までに研究したモノクロ画像を対象とした雑音除去手法(Switching non-local median filter: SNL-med)を拡張し,カラー画像を対象とした雑音除去手法を開発した.さらに処理を見直し,簡潔化することで処理速度の向上を図った. [カラー画像への対応] SNL-medは雑音検出処理部と雑音除去処理部からなるスイッチ型の手法であり,雑音検出処理で雑音であると判定された画素にのみ雑音除去処理を施すことで,原画像の構造を劣化させることなく雑音を除去できる.当該年度は,SNL-medをカラー画像対象の手法へ拡張するために,雑音検出処理,雑音除去処理それぞれに改良を加えた.雑音検出処理では,カラー画像の色情報に基づく色成分間差分画像を用いることで雑音検出性能を向上した.雑音除去処理では,カラー画像の一画素を赤・緑・青成分からなるベクトル信号とみなすベクトル処理として拡張することで,カラー画像へ対応した.定量評価と主観評価により,SNL-medよりも高品質な画像を得られることを確認した(定量評価にて約20%の向上). [処理速度の向上] カラー拡張を行う際,処理が複雑になることを防ぐため,雑音検出器は,カラー画像の色成分の差に基づく孤立画素検出器一つのみとした.さらに,カラー画像を対象とした雑音除去手法の処理を最適化することで処理速度の向上を実現した.処理時間の計測において,カラー画像を対象とした雑音除去手法(当該年度の提案手法)はモノクロ画像を従来のSNL-med(27年度の提案手法)の約5分の1程度の時間で処理できることを確認した. 以上のことから,当該年度の目的であったカラー化に対して,処理速度の低下を引き起こすことなく,十分に達成できたといえる.
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今後の研究の推進方策 |
現在の提案手法は,「現在までの進捗状況」に示すとおり,前年度よりも性能を向上することに成功したが,Photoshop等の市販の画像処理ソフトに実装されている雑音除去処理ソフトとの比較にはいたっていない.今後は,市販ソフトとの比較実験により,処理画像の品質および処理速度の比較実験を行っていきたいと考えている.それらの実験で十分な成果が得られた場合,パソコンやタブレット端末で使用可能なソフトウェアへの組込や動画像処理への応用を実施していきたい.また,ハードウェアに実装することを考え,メモリコストの削減を課題として,研究を進めていく. ソフトウェアへの組込,動画像への応用,ハードウェアへの実装を実現するには,共通して,処理時間のさらなる短縮が重要な課題となる.現在の提案手法では,一つの画素を処理する際に,探索領域の窓幅(約21~71個)の二乗の数のブロックに対して類似度を計算している.しかし,最終的には少数(3~9個)のブロック内の情報で,処理対象がその元の画素値を推定する.申請者はこの処理に処理速度向上およびメモリコスト削減の余地があると考えており,今後は,これまでの提案手法の処理画像の画質を極力低下させることなく,リアルタイム性の高いアルゴリズム開発を目標として研究していく方針である.
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