研究課題/領域番号 |
16J05099
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
張 奕勁 大阪大学, 産業科学研究所, 特別研究員(SPD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 遷移金属カルコゲナイド / 二次元結晶 / スピントロニクス / 量子干渉効果 / p-n接合 / 装置設計 |
研究実績の概要 |
本研究は、遷移金属カルコゲナイド(以下、TMD)と呼ばれる新奇半導体材料の基礎物性解明を解明し、非電荷型次世代エレクトロニクステクノロジーへと応用していくことを目的としている。TMDは従来の半導体材料と同様の電荷の自由度に加えて、スピンやバレーの自由度を有しており、これらはさらに光の円偏光とも結合している。 先行研究は主にバレー自由度と偏光の関係性に焦点を当てたものが多かったため、本研究ではまずTMDにおけるスピンの振る舞いを解明するところから始めた。具体的には、電荷の持つスピン情報の量子的な干渉によって生じる電気抵抗の変化(磁気抵抗効果)からスピンの緩和時間や拡散長を導出した。これらの情報はスピントロニクスデバイスのサイズ制限を決める重要な要素であり、今後のデバイス設計の指針となるものである。 上記の研究ではTMD中に意図的にスピンを注入したわけではなく、ランダムな方向を向いたスピンを持つ電子が各々の伝導中に起こす干渉効果を巨視的に捕らえた。しかしスピントロニクスデバイスを実現するためには実際にスピン偏極した電荷をTMDに注入する必要がある。本年度ではTMDへスピンを注入するための電極の最適化を行った。 スピン・バレーと光の偏光の間で情報交換を行うためには、TMDからの発光と受光が必要であり、そのためにはTMD中にp-n接合を形成することが不可欠である。TMD p-n接合そのものは博士課程時代に実現していたものの、その電気特性の詳細な評価は成されていなかったため、今回四端子測定法とホール効果測定を組み合わせてその振舞いを電気的に評価した。 また、ドイツ・Max Planck Institute for Solid State Researchのvon Klizing先生のグループと共同で、実際にこの情報交換を行うための顕微分光装置の設計を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では大阪大学産業科学研究所内に低温磁場下顕微分光測定装置を製作する予定であったが、ドイツのMax Planck Institute for Solid State Research(MPI-FKF)のvon Klitzing先生の提案でMPI-FKFによりハイレベルな装置を構築して共同研究を行うことになった。そのため装置の設計・製作に要する時間が当初の予定を上回り、関連する測定自体はまだ開始していない。しかし、装置が完成した暁には当初予定していたよりも詳細な測定が可能となり、またTMD以外の物質への応用も期待できるなど、当初よりも将来性のある方向へと進んでいる。 一方で、装置作成と並行して本研究で扱う物質(TMD)の基本物性に迫る研究を行い、電気伝導特性に現れる量子干渉効果からスピン緩和時間の見積もり、TMDへのスピン偏極電荷の注入に向けた磁性電極の最適化、光との結合に向けたTMD p-n接合素子の基礎物性の解明を行った。スピン緩和時間についてまとめた論文は既に採択され、Physical Review Bから発表される予定である。p-n接合素子の研究も既に論文にまとめており現在査読中である。 加えて、当初予定していなかった現象も観測した。現在でも博士課程時代の研究室(東京大学物理工学専攻岩差研究室)と共同研究を行っているが、そこでTMD中に光で形成したエキシトンが空間的に情報を輸送できることを発見した。こちらの研究は岩佐研究室の現メンバーが中心となって論文にまとめて投稿中である。 以上のことから、総合的には、研究は順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず顕微分光装置の構築を最優先に進める予定である。このため私自身が長期にわたって渡独し、構築の全てのステップにできるだけ密接に関る予定である。また、装置が完成した際には簡単なテストを行ったのち、本実験に取り組む。 上記の装置構築と並行して、TMDへ実際にスピン偏極電流を注入しその振舞いの観測と制御を目指す実験も行う。
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