研究実績の概要 |
1 加熱脱水した炭素質隕石の物質分析: 採用第1年度に引き続き、母天体において加熱脱水を経験した炭素質隕石および始原的炭素質隕石を用いて透過型電子顕微鏡(TEM/EDS)による微細組織観察および元素組成分析を行った。上記分析のため、2017年6-7月の1ヶ月間、独バイロイト大学を訪問した。この結果、加熱によって隕石中含水層状ケイ酸塩および含水硫化物が脱水・非晶質化し、Feに乏しい無水ケイ酸塩が2次的に生じると共にFeに富む金属微粒子が生成することを明らかにした。 2 加熱脱水した炭素質隕石の分光分析: 採用第1年度に引き続き、加熱脱水炭素質隕石のその場加熱真空フーリエ変換赤外分光(FT-IR)測定を進め、大気中CO2, H2Oおよび試料中吸着水を除去した反射スペクトルを取得した。波長3 μmにおける隕石中含水鉱物起因の水の吸収に関する研究結果は、現在運用中の小惑星探査機はやぶさ2に搭載されている近赤外分光計(NIRS3)により取得されるスペクトルデータの解釈において有用であることから、本研究でFT-IRデータとNIRS3データの比較検討およびNIRS3データ補正手法の提案を行い、英語論文を国際誌へ投稿し受理・掲載された。また2018年9月に1ヶ月間、米ブラウン大学を訪問し習得したスペクトルの定量的解析手法であるMGM法をFT-IRデータに適用することで、反射スペクトル3 μmにおける含水鉱物起因の水の吸収の定量的解析と、可視域と赤外域のスペクトルの統合的解釈から加熱の進行程度とスペクトル変化の相関関係を明らかにした。 1, 2を合わせ、炭素質隕石母天体である含水小惑星において生じる加熱によって、含水鉱物の脱水とアモルファス化が進行し、続いて無水鉱物の晶出とFeに富む金属微粒子が生成するという含水小惑星表層において進行していると考えられる一連の加熱脱水プロセスの理解につなげられた。
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