研究課題/領域番号 |
16J05171
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鐵本 智大 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
キーワード | 微小光共振器 / オプトメカニクス / フォトニック結晶共振器 / 光輻射圧 / 光スイッチ |
研究実績の概要 |
本年度は提案素子の作製に重点的に取り組み,本提案の主要素子のzipper共振器および導波路への高効率な光入力のための簡易的なスポットサイズ変換器の作製に成功した.また,その過程で得られた技術を生かすことで学会誌や国際会議への発表を行うことが出来たので概要を記す. まず,導波路の端面形成に利用したダイシング技術によりシリカトロイド共振器構造を基板の端から飛び出した形で作製する手法を確立した.トロイド共振器は超高Q値共振器として知られているが,作製手法が特殊であり他のデバイスと組み合わせた実験はあまり行われてこなかった.本手法ではトロイド共振器を基板に邪魔されることなく他のデバイスに物理的に近づけて結合させることが出来る.この技術を用いてトロイド共振器同士の結合共振器系を用いた保持時間が長い全光光バッファの実験やトロイド共振器とフォトニック結晶導波路の世界で初めての結合実験を行い,筆頭著者として1件(CLEO-PR)、共著者として1件(CLEO:2017)の国際会議への採択が決まり,1件の国内会議発表(応物春季)を行った. 次に,導波路からの光入力のバックアッププランとして検討したテーパファイバを用いた光入力法を応用して,フォトニック結晶導波路上の再構成可能な光共振器形成および高効率な光入力効率を示し,1件の国際会議発表(PECS2016)を行った.また,検討したプロセス技術とテーパファイバを用いた測定技術を用いてシリカナノビーム型共振器におけるTE・TMモードの両方における世界最高Q値を達成し,1件の国際会議の採択を得た(CLEO:2017). さらに,提案素子の工業応用の可能性を探索するためにフォトリソグラフィを用いたフォトニック結晶デバイス作製に携わり,2本の学会誌(Opt. Express)への発表の共著者となり,筆頭著者として1件の国際会議(ICNN)の採択を得た.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Zipper共振器の作製および高効率な光入力のための簡易的なスポットサイズ変換器の作製を行った.本研究において高Q値なzipper共振器の作製は共振器に高い強度の光を局在させ光輻射圧により大きな変位を得るために重要である.作製にはNICTの半導体作製装置を利用した.基板にはSOI基板と呼ばれるシリコン基板上に,3 μmのシリコン酸化膜と220 nmのシリコンを成膜したものを利用した.まず,基板上にCVD法によりシリカのマスク層を成膜した.この工程はシリカをエッチングマスクとすることでレジストをマスクとするよりもエッチングの選択比を上げ,エッチング中のポリマーの発生を少なくするために行っている.次に,EBレジストをスピンコートし,EB描画を行った.レジストの現像後,レジストをマスクにシリカマスク層をICPエッチング装置で削った. EBレジストの剥離後,Cl2ガスによるICPエッチングによってシリコンのエッチングを行った.その後,HFエッチングでシリカマスクおよびシリコン下部の犠牲層のエッチングを行うことでエアブリッジのzipper構造を作製した. 一方で,導波路への光の入力効率を高めることも光輻射圧により効率的に大きな変位を得るために重要となる.そこで,簡易的なスポットサイズ変換器の作製およびダイシングによる端面形成の検討に取り組んだ.空間系から導波路に光を入力する際の結合効率はそれぞれにおける光のモード形状の重なりの大きさに依る.そこで,本研究ではシリコン導波路をテーパ状に細くすることでシリコン導波路から空間への光の漏れ出しを大きくし結合効率を高めることを狙った.EB描画および現像条件を工夫することで最小80 nmの幅のシリコン導波路の作製に成功した.また,ダイシングでは深さおよび掃引の速度を調整することで導波路端の欠け無くきれいな端面形成が可能な条件の最適化を行った.
|
今後の研究の推進方策 |
来年度は作製したデバイスの性能評価および光スイッチ実験を行いたい.今年度の検討により本提案における主要素子であるzipper共振器の作製および効率的な光入力のための簡易的なスポットサイズ変換器の形成方法を確立した.来年度はこれらの素子の性能評価に取り組みたい.Zipper共振器の基礎評価はテーパファイバによって光の入出力することで行う.入力するレーザ光の波長を掃引することで共振器の透過スペクトルを取得し,Q値を求める.この際にQ値が105程度得られることを目標とする.また,共振波長の光を入力した際の透過光のRFスペクトルを取得することで機械振動の周波数および機械Q値を得る.これは,素子の動作速度や発振閾値を知るための重要な指標となる.簡易的なスポットサイズ変換器の評価は長さを変えたいくつかの導波路に対してレンズにより光を集光し入力することで行う.導波路の長さの違いから伝搬損失が算出でき,入力パワーと出力パワーを比較することで簡易スポットサイズ変換器の結合効率が明らかに出来る.光スイッチ実験は上記二つのデバイスを導波路により組み合わせて作製し,制御光の有無により信号光の消光比の変化を測定する.なお,簡易スポットサイズ変換器は構造の安定性の向上およびモード形状を大きくとるためにシリカクラッド層に埋め込むことを検討している.そのためにzipper部のみの部分的HFエッチングを後工程で行う必要があるが,手法に関しては本年度の検討で確立済みである.以上に加えて,本年度,設計しシリコンフォトニクスファウンダリに発注したフォトリソグラフィで作製したzipper構造が納品されたので,その評価を行うことで提案素子の工業化のための課題を検討したい.
|