研究課題/領域番号 |
16J05232
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
多久和 理実 神戸大学, 大学院国際文化学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | 物理学史 / 光学史 / イタリア / 17世紀 / 実験技術 / アイザック・ニュートン |
研究実績の概要 |
本研究は、科学先進国であったはずのイタリアが17世紀半ばを境にイギリス、フランス、ドイツのような国々に後れを取った原因を、光学分野から解明することを目的としている。研究方法としては、史料の収集・分析を行う歴史学的手法と、当時行われた実験のシミュレーション・再現を行う考古学的手法という二つの方法を組み合わせる。 平成28度は、17-18世紀の光学史を分析する基礎段階として、17世紀半ばに光学理論を革新させたアイザック・ニュートンに注目して研究を進めた。ニュートンは、光と色に関する現象を初めて数値化した人物であり、自身の新しい光学理論は実験によって証明されるという立場を取っていた。そのため、17-18世紀の光学史を研究対象にする場合は、理論と実験が正確に対応しているのか検証する必要があり、歴史学的手法と考古学的手法を組み合わせることが重要となる。 歴史学的手法を用いた調査として、9-10月にイタリアを訪問し、ミラノ市立図書館およびポッジ宮博物館においてイタリアの学者たちがニュートンの実験を追試した際の実験記録を収集した。また、実験記録の分析から、ニュートンの実験が果たした役割を後世の歴史家や科学哲学者たちが誤解していることを見出し、1月の火曜日ゼミナールで発表した。考古学的手法を用いた調査として、ニュートンが17世紀半ばに行った光学実験を再現した。また、再現実験を行うだけでなく、実験条件を変化させた場合の実験精度の変化をシミュレーションした。このシミュレーションと再現を合わせた研究成果は、5月に日本科学史学会年会において発表した。また、シミュレーションと再現によって判明した、イタリア人を含む18世紀の学者たちの行った実験の誤りについては、9月に欧州国際科学史会議において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28度は、17-18世紀の光学史を分析する基礎段階として、17世紀半ばに光学理論を革新させたアイザック・ニュートンに注目して研究を進めた。研究実績の概要の欄に書いたように、歴史学的手法を用いた調査においても考古学的手法を用いた調査においても主張の根拠となるような資料や実験結果にたどりついた。歴史学的手法を用いた調査の成果は火曜日ゼミナールにおいて、考古学的手法を用いた調査の成果は日本科学史学会と欧州国際科学史会議において、口頭発表という形で発表した。 区分を「やや遅れている」とした理由は、研究成果を年度内に投稿論文の形にまとめることができなかったためである。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に研究の基礎段階となるアイザック・ニュートンの光学理論についての調査の主要部分を終えた。ただ、平成28年度の成果を投稿論文の形にまとめる作業が残っているので、今後はまず論文執筆の作業を行う。 平成29年度はイタリア国内でニュートンの理論がどう受容されたのかに調査の視点を移す。具体的には、18世紀のイタリアで行われたニュートンの光学実験の追試のデータを調査する。また、イタリアの博物館に所蔵されているプリズムの光学特性(屈折率・分散率)を分析する。分析したのち、当時のイタリアのプリズムと同様の光学特性をもつガラスからプリズムを作成し、実験の再現を行う。再現実験のデータから、18世紀イタリアの実験機器の精度を評価する。
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