本研究は、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)系材料のデバイス応用へ向けた局所的な伝導特性の光応答評価手法を用いた基礎研究である。今年度の研究実績は以下のようになった。 1.多探針STM装置(MP-STM)の改良として、前年度までに試料にダメージ・汚染を生じる電子顕微鏡(SEM)の代わりに長焦点距離の光学顕微鏡を配置する改善を行った。測定系応用として、対物レンズを通して光照射を行うことで、入射光を~2μm程度のスポット径まで絞れるようになった。また、スポット径が小さくなるに際し、ばね除震部の揺れにより光強度が不安定となるため、除震性能を強化し、揺れを数百nm程度まで低減できた。 2.改造した装置を用いて多層WSe2試料のキャリアダイナミクス計測を行った。これまで測定できなかったμsの時間スケールで計測できる光学系を作成し、多層WSe2の本質的な再結合寿命を反映する ~1.5 μsの成分を計測できた。以上の内容は、Applied physics express 誌へ掲載された。 3.以上により培った技術を用いて、研究計画に記載した絶縁体上の単層ヘテロ材料の2探針を用いた光励起計測を行った。単原子層面内のMoSe2/WSe2ヘテロ構造に対して、探針接触によるFET特性測定と連続光照射計測によるバンド構造の推定やフェムト秒パルスレーザー光を用いたキャリアダイナミクス計測を行った。今後、ナノスケールでの構造観察と合わせ、様々な起源が考えられている光応答との対応を明らかにしてゆく。以上の内容は、Applied physics express 誌へ掲載された。 4.バレーホール効果計測の、準備段階として、円偏光変調方式を用いてバレー偏極キャリアの寿命をとらえるための実験を行った。結果、nsスケールでのバレー偏極緩和由来の信号を得た。
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