研究課題
視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)のパルス状分泌は、卵巣における卵胞発育および精巣における精子形成に必要不可欠である。視床下部弓状核に局在するKNDyニューロンはキスペプチン、ニューロキニンB(NKB)、ダイノルフィンA(Dyn)の3つの神経ペプチドを含有しており、GnRHパルス発生中枢(GnRHパルスジェネレーター)であることが示唆されている。GnRHパルスジェネレーターの活動はNKBにより促進され、Dynによって抑制されるが、詳細なメカニズムは不明である。本研究の目的は、反芻家畜の視床下部におけるNKB受容体およびDyn受容体の局在を解明し、GnRHパルスジェネレーターの活動制御におけるNKBおよびDynの役割を明らかにすることである。今年度は、GnRHパルスジェネレーター活動を促進することが明らかとなったセロトニンに着目し、シバヤギKNDyニューロンにおけるセロトニン受容体の発現解析を目指した。セロトニン受容体のうち、促進性のG蛋白質共役型受容体であるセロトニン受容体2C(HTR2C)に着目し、in situハイブリダイゼーション法によりシバヤギ視床下部におけるHTR2C mRNAの局在解析を試みた。また、これまでに得られた知見を応用するために、シバヤギにおいてNKB受容体拮抗剤の経口投与技術の確立に取り組んだ。農作物生産現場ではニホンジカなどの野生害獣による農作物への被害が深刻化しており、シカの個体数を制御し農作物への被害を軽減することは急務である。そこでニホンジカのモデル動物としてシバヤギを用いて、NKB受容体拮抗剤の経口投与が精巣ホルモンであるテストステロン分泌および精巣における精子形成におよぼす影響を解析した。
1: 当初の計画以上に進展している
KNDyニューロンにおけるセロトニン受容体の発現解析ヤギにおいてHTR2C遺伝子の塩基配列情報が明らかとなっていないため、HTR2C遺伝子のmRNA配列の決定を行った。ヤギ弓状核から全RNAを抽出し、cDNAを合成した。次にデータベース上のヤギHTR2C予想配列からプライマーを設計し、RACE法を用いて全長mRNA配列を決定した。次にHTR2C cdsを含む領域にcRNAプローブを設計し、in situハイブリダイゼーション法によりシバヤギ視床下部におけるHTR2C mRNAの局在解析を試みた。現在、良好な染色結果を得られておらず条件検討を行なっている。次年度にはシバヤギ視床下部におけるHTR2C mRNAの局在解析および弓状核KNDyニューロンにおけるセロトニン受容体の発現解析を完了する見込みである。ニホンジカの個体数管理への応用を目指したNKB受容体拮抗剤の経口投与技術の確立実験には雄シバヤギを用いた。濃厚飼料にNKB受容体拮抗剤を添加し、7日間給餌した。経口投与開始前日および投与終了日に採血を行い、血中テストステロン濃度を測定した。また投与終了翌日に精巣組織を採取した。NKB受容体拮抗剤の経口投与群では対照群と比べてテストステロン濃度が減少した。また、NKB受容体拮抗剤の経口投与群において精巣内の精細管の萎縮が観察された。 本研究の成果から、ニホンジカの個体数制御においてNK3R拮抗剤の経口投与が有効であり、新たな害獣被害対策となりうることが示唆された。
シバヤギKNDyニューロンにおけるセロトニン受容体の発現解析を行うとともに、KNDyニューロンに投射するセロトニンニューロンにおけるNKB受容体およびDyn受容体の発現解析を行う。さらに、所属研究グループが保有するラットKNDyニューロンにおけるトランスクリプトーム解析の結果を用いて他の候補因子を選抜し、その候補因子がヤギのGnRHパルスジェネレーターの活動におよぼす影響を検討する。
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