ミクログリア(MG)は脳の免疫細胞として機能している。うつ病やアルツハイマー病などの神経疾患では異常に活性化したMGが認められ、MG機能制御がこれら神経疾患の治療につながると期待されている。これまでの研究により、ヒスタミン3型受容体(H3R)を介してMG機能が制御されていることをin vitroの系において見出した。本研究では、H3Rを介した生体内MGの機能制御や病態との関連について検討する。 本年度は、H3Rを介したMG機能制御についてin vivoの系にて検討を行うとともに、MG特異的H3R欠損マウス(H3RCKO)の樹立を試みた。 まず、マウスにグラム陰性菌由来内毒素(LPS)を腹腔内投与し、脳内MGの炎症性サイトカイン産生を誘導させ、それに対するH3Rアゴニストまたはアンタゴニストの作用を検討した。結果、H3Rアゴニストは、生体内MGの炎症性サイトカイン産生をさらに増加させたのに対し、アンタゴニストはその産生を抑制した。この結果と、MGの異常活性化抑制が神経保護につながるという既報から、H3RアンタゴニストのMG機能抑制作用に注目し研究を進めた。MGの貪食能への影響について検討した結果、LPSにより亢進したMGによる蛍光ビーズの貪食が、H3Rアンタゴニスト投与により抑制された。また、うつ病モデルを用いた検討では、H3Rアンタゴニスト投与により、うつ様行動が改善されただけでなく、MGによるうつ病関連サイトカインの産生も抑制された。Cre loxPシステムを用いたH3RCKOの作製では、MG特異的Cre発現マウスの精子を購入し、個体を復元したが、そのマウスにCre遺伝子の発現が認められなかった。 今後は、MG特異的H3R欠損マウスを用いて、MGにおけるH3Rの役割やH3Rアンタゴニストの作用の詳細について検討する必要がある。
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