研究課題/領域番号 |
16J05288
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
三枝 優太 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | ポルフィリン / 縮環反応 / 縮環ポルフィリン / お椀型 / 集積化 |
研究実績の概要 |
本年度は、新規お椀型縮環ポルフィリン誘導体(ZnOFP)を得るために、縮環反応条件を検討した。ZnOFP誘導体の合成には、当初の計画通り、四重縮環ポルフィリン(ZnQFP)誘導体の縮環していないピロールのベータ位に、ブロモ基を4つ導入したテトラブロモ体を前駆体として用いた。縮環アリール部分のパラ位の置換基は、tert-Bu基あるいは、生成物の溶解性の向上を狙い、メシチル基を選択した。また縮環反応に用いる触媒は、ZnQFP誘導体を高効率に合成できるパラジウムクラスターを選択した。反応条件を検討した結果、縮環アリール部分のパラ位の置換基にtert-Bu基を導入したテトラブロモ体を前駆体として用いた場合に、縮環反応の進行が、MALDI-TOF-MS測定により確認された。しかし、反応生成物の溶解度が低く、詳細な分析は行うことができなかった。一方、縮環アリール部位にメシチル基を導入したテトラブロモ体を前駆体として用いた場合にも、同様の縮環反応を行った結果、MALDI-TOF-MS測定によりZnOFP誘導体に、カリウムイオンがひとつ付加したイオンに相当するピーククラスターが観測された。得られた反応生成物は、十分な溶解度を有しており、プロトン NMR測定では、重ジメチルスルホキシド中において、ZnOFP誘導体の対称性の高い構造に起因する二種類のシングレットシグナルが芳香族領域に観測された。さらに、得られた生成物はジメチルホルムアミド中での紫外可視吸収スペクトルにおいて、620 nm付近にブロードな吸収帯を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
お椀型縮環ポルフィリン(ZnOFP)誘導体に関する研究は、研究実績の概要に述べたように、四重縮環ポルフィリン(ZnQFP)誘導体の縮環していないピロールのベータ位に、ブロモ基を4つ導入したテトラブロモ体を前駆体とし、反応条件を検討した。検討の結果、ZnOFPの生成を、MALDI-TOF-MS測定および1H NMR測定を用いて確認している。今後は、得られた生成物の単離精製を行い、自己集積化や光導電性の検討を行う予定である。 また縮環ポルフィリン誘導体を利用した光電子機能性創出の一環として、ZnQFP誘導体の縮環アリール部位の対角の位置に、電子供与性基と電子求引性基を、それぞれ導入した”Push-Pull”型ZnQFPを合成し、その非線型光学特性を検討した。得られた”Push-Pull”型誘導体を用いて、クロロホルム中でハイパーレイリー散乱法により、二次の非線型光学特性を表す分子超分極率を求めた。1300 nmの入射光に対する”Push-Pull”型ZnQFPの分子超分極率は、730 × 10^-30 esuと大きな値を示した。一方、同様の置換基を導入したテトラフェニルポルフィリン誘導体の分子超分極率は、3 × 10^-30 esuだったことから、縮環構造の形成によって分子超分極率の値が、240倍も大きく向上したことが示された。
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今後の研究の推進方策 |
お椀型縮環ポルフィリン誘導体に関する研究では、得られたお椀型ポルフィリンの特異なドーム型構造に基づき形成される異方性一次元鎖超分子集積体の構造を、結晶構造解析により明らかにする。また自己集積化構造形成に有利な長鎖アルキル基や、オリゴエチレングリコール鎖などの置換基を導入したお椀型ポルフィリン誘導体の合成を行う。また自己集積化構造形成のための置換基導入を行ったお椀型ポルフィリンを用いて、ディスコティック液晶特性の発現を目指す。示差熱測定や温度可変偏光顕微鏡測定を用いてお椀型ポルフィリンの液晶形成能を確認し、その後、基板上に分子を整列させ、配列制御に依存した電子移動特性を評価する。さらに得られたお椀型ポルフィリンとコラニュレンなどの曲面構造を持つπ共役分子との複合超分子の形成や、平面型のポルフィリン誘導体と混合することにより分離積層型超分子集積体を形成する。これらの複合超分子の形成を、結晶構造解析や、紫外可視吸収スペクトル測定によって評価する。また得られたお椀型ポルフィリンの一次元集積体を用いて、電子やホール、および励起エネルギーの伝導経路としての性能を評価する。一次元集積体中の電子移動速度や、光伝導度測定には、共同研究を利用して、時間分解マイクロ波伝導度測定などの手法を用いる計画である。
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